準備万端?

 
一番の問題はアレと同じ屋根の下ということなんだよね。
何かを報告に来た男の使用人さんと話をしている吸血王子を盗み見る。

吸血鬼だなんて、実際に血を吸われて他人を襲ってる現場も目撃したのに、あの時の驚愕から時間がたった今は、アレってホントのことだった? なんて、喉元過ぎればなんとやら、実感がないというか。

私がそれほどパニックになってないのはここが異国の地だからかもしれない。

日常を送っていても、どこか現実味がない、ここでの暮らし。

特に私たち学生は、一つの街のような学園内で生活するから、そのせいもあるかも。
私たちが通う学園校舎は、コンピューター棟こそ近代的な建物だけど、あとは城とも見紛う歴史的建造物なのだ。
石造りの塔があったり、中庭というには広域過ぎる庭園やら、そもそも日本とは種の違う樹々に囲まれていたりするから、時々お話の中に迷い込んだんじゃないかと、そんな錯覚に陥ったこともある。

そんな留学生活に滑り込んだ、更に非日常。
開き直るしかないではないか。

私はアレイストに拉致られたあと、ずっと寝ていたらしい。
ちょうど起きたのが昼食前で、今は二時過ぎくらい。

 半日無駄にしてしもてるしー。

使用人さんと話し終えて、こちらを振り返ったアレイストに私は言う。

「アレイスト。私、荷物取りにいきたいです。テキストとか、えと、必要なの」

なんの準備もなくイキナリ連れてこられてるし。冷蔵庫のものとか処分しないとダメだろう。
なっトースト………。

どんなことにもすぐに順応しようとする自分の神経の太さが恨めしい。
多分こういう太さが彼らに(オモチャとして)気に入られる理由になっちゃうんだろうな。
私の訴えを聞いたアレイストは、その必要はないよ、と微笑む。

「アストリッドに手配して貰って、君の荷物を全てここへ運ぶようにお願いしたから」

 ……はっ?
 いやそれは助かんねんけど、え?

「大丈夫だよ、寮に備え付けてある家具以外、全部持ってきてもらえるはずだから。君がこちらに来て揃えたものもあるんだろう? もう少ししたら着くはずだから、一緒に片付けようか」

妙に楽しそうに、口を挟むスキもなくアレイストが言うのに、頷きつつ首を捻る。

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