セクハラ禁止令
「セクハラは、禁止です」
「……どの辺りまでミツキの言うセクハラになるのかな?」
アストリッドが帰ってしまい、孤立無援(いやアスタがいてても半分味方やなかったけど)となった私は、変態セクハラ吸血鬼野郎のアレイストに、注意事項を申し立てていた。
「撫でたり触るの、無しです。私はペットでないです」
『別に無理に英語じゃなくても』
もう日本語わかるのバレちゃったし。などと悪びれず言う、流暢すぎて流暢すぎるアレイストの発音にコメカミがひきつる。
「英語、会話しないと、意味ないです。なるべく、話すです」
ん? 話して、だっけ?
少ない脳みそから単語を引っ張り出し悩んでいると、クスッ、と鳥肌がたつような甘い笑い声をアレイストが立てた。
『どっちでも可愛いから良いけどね?』
『がーッ! それも禁止、キモいねん! あたしにはそうゆうお世辞必要ないから言わんでええ!』
こちら目掛けてやってくるキラキラの幻を叩き落として私が怒鳴ると、眉をハの字にしたアレイストがさも悲しげにつぶやく。
「……俺に話すなと言いたいのかい」
誰もそんなこと言うてへんやろ。ただ歯が浮くような甘ったるいこと言わんでええっちゅうてんねん。
「心の底から真剣に言っているのに……」
へーへー、小猿を愛でるような気持ちでねー。
「……何故通じないんだ、日頃の行いか? 魅惑が効かないなんて調子が掴めない。……恐るべしイミューン…」
ぶつぶつ何言うてんのや。
そんなことよりこの落ち着かん部屋よりもっとこじんまりした場所はあらへんの? 日本の公団住宅に家族六人、六畳間が姉妹共同の部屋だったあたしにはすこぶる具合が悪い広さなんやけど。
旅行とか、そんな特別な滞在で、こんなお姫さま部屋に泊まるのはかまわない。
しかしそこで生活するとなれば話は別だ。
落ち着かない。
落ち着かなさすぎる。
はあ〜、あたしホンマにこないなところであと6ヶ月も暮らさなあかんの〜? 神経やられそうねんけど……。