諦め
『だから、次期当主である俺の監視下にあるという形を取るんだよ。そうすれば俺を差し置いてミツキに手を出そうなんて考える奴はいないからね』
ビビりまくっている私の頭をポンポンと撫でて、アレイストが安心させるように微笑む。
………うさんくさい。
しかし言っていることに嘘がないのは何となくわかった。
ううっ、頼るしかないんか?
まじでこのセクハラ野郎に頼るしかないんかーーー!?
『……メリットは』
憂鬱に声を絞り出した私に向けられるハテナの視線。
『アレイストがそうやってあたしを庇うメリットは? 無償で面倒見てくれるなんてそんな都合のエエこと考えられへん』
アスタはまあ、親友やしな。たとえ半分以上あたしで遊んでいるとしても。
私の疑念に満ちた目を見つめてアレイストは、そんなの、とフワリと笑う。
『ミツキを愛しているからだよ』
ずざ――――――――ッッ!
うすら寒いセリフに、音を立てて思い切りどんびきした私に、あれ? と首を捻り、予定していた反応と違う、と不思議そうにつぶやいて。
きっしょいねん!
なに真笑顔できっしょいこと言うとんねん! アスタは笑いすぎ!!
アレイストは諦めたようなため息をついた。
そうそう、あたしで遊んでへんとチャキチャキ話しぃ。
『……ミツキを気に入ってるというのは嘘じゃないよ? 土壇場に見せるクソ度胸とか、考えていることが垂れ流しなところとか、成長不良ぎみな身体も育てる楽しみがあっていいかもしれないと思うようになったし。
だから、化石ジジイの好きにさせるつもりはないから』
なんかビミョーに聞き捨てならない部分もあったけど、大まかにはようするに、アレイストは“化石ジジイ”が気に入らなくて、その反感ゆえに私を庇うと仰るのね?
なるほど、それなら納得いくわ。
てゆうかアスタはいつまで笑っとんねん。
「ふは、あははっ、全然通じてないよ、アレイスト」
「……まあ、気長にいくよ……」
ん? なんかアレイスト疲れとらん? 気のせい?
『せやけど、学校の方にはどう言うねん。留学生は寮に入るのが規則やなかったか』
ますます私への風当たりがキツくなるのではと一抹の不安を抱えながら言うと、
『そんなものはどうにでもなるよ』
有無を言わさぬキッパリした笑顔で返された。
………さようですか。
何をどうするのかは聞かないでおこう。
椅子にかけ直して、メイドさんが新しく淹れてくれたお茶を啜る。
もう成り行きに任せるしかない、とヤケクソの諦め気分になった私は、意味ありげにアレイストとアストリッドが視線を交わすのに気がつかなかった。