食い気と危機管理


『いいじゃん、ミッキ。ここにいれば至れり尽くせりだし、楽だよぅ〜。あたしも遊びに来るしさ、ご飯も美味しかったでしょ』

猫なで声でアストリッドも私を口説きに掛かるが、私はフンとそれを蹴る。

『冗談、私は1日一食は必ず米の飯が食いたいんや。なっトーストも出来んようなお上品なお宅で暮らせるかい』
『なっトースト……?』

奇妙な顔になったアレイストに、一度なっトーストを食べさせたことのあるアストリッドが嬉々として説明する。

『ミッキの好物なんだよね。パンの上に納豆とチーズ乗せてトーストするの。日本人てファンタスティック〜』

どういう意味。
ちなみに刻み海苔があればなおベストです。

アレイストは納豆が苦手なのか物凄い不味そうな表情をした。

『納豆ってアレだろう、腐らせた豆……』

失敬な。
その通りだけど生血を飲んでるアンタたちに文句をつける権利などない。

『言っとくけどあたしの冷蔵庫に納豆の入ってへん日はないしな。梅干しと合わせて必需品や』

何故か胸を張り威張る私に、アレイストが物凄く不本意だという様子をしつつも仕方がない、とつぶやく。

『ミツキ用の冷蔵庫を用意するから、納豆でも何でも好きな物を入れておくといい』

 わーい、つまみ食いし放題〜。

『ってちゃうわー! 話がズレとる! 何であたしがアレイストの城で暮らさなあかんねん! おかしいやろ!』
『でも、そうしないとミツキはジャンシール本家の地下牢に幽閉されちゃうよ?』

爆発する私に、アストリッドが淡々と告げた。

 は………?
 幽閉てなに。
 ちっ、地下牢!? リアル地下牢があんの!?

恐る恐るアレイストを窺うと、嘘はない顔で頷かれる。

『なななんでっ! 別にあたし言いふらしたりせえへんでっ!? 吸血鬼やーなんてその辺の人に言うてたらあたしの方が病院行きやん!』

パニックになる私とは裏腹に、アレイストはどこかにいる誰かに呆れた視線を投げた。

『ミツキがどうであれ、うちの化石ジジイどもが納得しないんだ。少しでも一族に不利をもたらすと思われれば、粛清の対象になる』

 しゅしゅしゅ、粛清て―――!!
 なんもしてないのにいぃ!!?


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