ジャンシールさん家の事情
てゆーか弱味も何も知っとったんやないかい!
グルやんけ!
人で遊びやがって、そのうち絶対仕返ししたる。
ひとまず私のお腹がくちくなったのを見計らい、アストリッドが話を再開する。
『アレイストとあたしは要は従姉弟なんだけどー。
ジャンシールの家系図ややこしいよ? ミッキも今のうちから覚えといた方がいいかもね』
フフッと楽しげに笑うアストリッドを睨む。
なにゆえワタクシが一国に根を張った吸血一族の家系図を記憶せねばなりませんの。
そんな大学受験の役にも立たん知識はいらん。
アストリッドとアレイストがしてくれた話をまとめよう。
ジャンシール一族は吸血鬼、と一般に称される存在である。
この国の成り立ちに深く関わる彼らは、昔から裏で時には表からも政を支配してきた。
現にアレイストの父親は評議会副議長だし、アストリッドの実家は銀行家。
おいおい教えてあげるね、と前置きされて(いや教えていらんけど)大雑把に説明されたところによると、国の中枢や主要機関には必ずジャンシール一族の者がいるという。
……なんかソレって四方八方囲まれてる気分?しかし一族が吸血族だと知っている一般人は一握り。
彼らに忠誠を誓った者だけがその真実を知る。
逆に“それ”を知らない人にとってジャンシール家とは、王族に繋がりのある古くからの名家、政界にも経済界にも力を持っている、敵に回すと厄介な一族だということだ。
『アレイスト思いきり金髪美女の血ぃ吸うとったやん。バレてええの? つか彼女知っとんの』
私が昨日のアレを思い出して指摘すると、変態セクハラ血吸い魔はクッと嘲笑った。
『まさか。あんな女に俺が真実を教えるとでも? 第一、覚えていないさ』
心底蔑んだ様子で。
……あんな女はアンタの彼女(の1人)やったんちゃうんかい。
なんちゅう言い草や。
って、……ん?
“覚えていない?”
キョトリと瞬いた私に、アストリッドが説明してくれる。
『あたし達がお食事をするときはね。相手の意識を支配下に置いて頂くから、記憶には残らないんだ』
『はー。便利になっとんのやね』
せやけど、そしたら何であたしは覚えてんの?
アレイストが金髪美女にかぶり付いたとこも、あたしを襲いやがったんもしっかり記憶に残ってる。