ヒーロー靴底
だって、目がマジだ。
今までの意図が読めなかった作り笑いと違って、ちゃんと“あたし”を見て、微笑んでる、そんな瞳をしてる。
怖いいぃぃ!
正直、アレイストが吸血鬼だってことより、突然降ってわいたような私に対する好感情ほど怖いものはなかった。
これ以上下がればベッドから転がり落ちる、というギリギリ端っこまで追いつめられ、アレイストは楽しそうに私に迫り、また触ろうと手を伸ばしてくる。
ぺたぺた触んなー!
せやからセクハラやっちゅうねんーー!!
「ミツキ……?」
鳥肌がたつような柔らかく美麗な笑顔を至近距離で向けられる、これは立派な嫌がらせだと思います!
さっきのメイドさんはこちらを見ないようにしながらパタパタと動き回っている。
助けてえぇっ。
「身体の具合は? つい嬉しくて加減ができなかったからね。痛いところや辛いところはないかい」
アレイストの言うことが何かヤラシイ意味っぽく聞こえんのはあたしだけか。
とりあえず唯一露出している頭を触ることにしたらしく、アレイストはやたらと髪を触ってくる。ニマニマしながら。
きもいねんけど。
誰か助けてッ。
――そして、救い主は靴底の姿をして現れた。
《 げし。》
なんて音が聞こえそうな乱暴さで、アレイストの後ろから現れた人物が彼の背中を蹴ったのだ。
「邪魔。てか存外に気持ち悪いなー、開き直って色ボケたお前って」
『アスタ!?』
オレンジの髪の友人を見て、私は驚く。アレイストはムクリと起き上がり、彼女に非難の目を向けた。
「邪魔は君だよ、アストリッド。いいとこだったのに、なんの権利があって俺の邪魔をするんだ?」
「ミッキの親友としての権利だよ。口説くのはミッキの用意が出来てからにしな」
おおお親友ー!
天の助けーー!
でも用意が出来てからとかは余計なのー。