憐れ、その牙のもと


『あンの変態セクハラ吸血鬼ィッッ!!』

思い出した。

 アレイストの野郎にしこたま血を吸われて貧血で失神したんや! 殺されるかと思うたけど、こうして生きとるっちゅうことは、命まで取るつもりはあらへんてことか?

にしても、この状況は何なんだ。
ここはもしやアレイストの――ジャンシール家の城?

 なんでそこのゴージャスベッドでピラピラ着てあたしは寝とんねん。
 金髪美女は放置したくせに、あたしだけ連れ帰った、ちゅうことやんな?
 ……なんの目的で。

『飛び降りはオススメしないよ、ミツキ』

窓辺で考え込んでいた私にかけられる声。
面白がるようなその口調にモチロン私は聞き覚えがあった。

 てゆうかここで他のヤツが出てくる理由があらへんし。

『変態セクハラ吸血鬼、どうゆうつもりやっちゅうねん!』

噛みつく私に「ん?」と可愛らしく小首を傾げ、アレイストはきらきらしく笑って言った。

『拉致監禁?』

すざざと後退り距離を取る。

 武器、武器になるようなもの、あらへんか。

キョロキョロとその辺りを見回し、椅子や花瓶のお値段と自分の貞操を天秤にかけ、わずかに後者が勝ちかけたところでアレイストは前言撤回した。

『冗談だよ。まあ、それに近いものはあるけれど』

 こいつ遊んどるな……。

恨みがましくジトリと睨むと可笑しげに吹き出し、そんなところにいないでこっちへおいでと手招きする。

 行くと思うんか、このセクハラ血吸い魔。

ますます目を険しくする私に、アレイストは視線を上から下まで走らせて。なんとも言えない笑みを唇に浮かべた。

『……ミツキ、それはサービス? まだ待つつもりだったけど、誘惑してくれるのなら俺に否やはないよ』

 は? なに言うとんねん、アホちゃうか? なにがサービス、誘、惑……?

物凄い勢いで私はさっきまで寝ていたベッドに戻り、上掛けを引っ掴んでくるまった。

ピラピラはスケスケだったのだ!!


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