贄と


一族の赤の眼を見つめたものは、例外なく我等に囚われ、心を支配される。
食事がしやすいように、一族の誰もが持つ本能的な魅惑の力がそうさせるのだ。

血を奪ったあとは、何も覚えていないように、記憶操作の力も。

他者の意識を奪い、操ることすら出来る力を持つのは、今では直系くらいだが。

用済みになった餌を投げ捨てる。
目が覚めたら良いように作り替えられた記憶により、もう俺に付きまとうようなことはないだろう。
忌々しいが、喰らい尽くすわけにもいかない。

まったく、じっくり楽しんでから、頂こうと思っていたのに。

残念だ。

俺も、残念なんだよ、ミツキ――……?

小さな窓から感じる押し殺した震える息づかい。
ちっぽけな身体に流れる脈動が、ミツキの状態を事細かに教えてくれる。
甘く薫る精血からは、恐怖と驚愕、疑惑と困惑、

―――わずかな戦意。

それを感じた瞬間、ゾクリと、歓喜にも似た震えが身を走った。

ああ、ミツキ。
やっぱりもったいないね。
君はもっとゆっくり時間をかけて堕としてあげたかった。
もう君のあの威勢の良い日本語が聞けないと思うと、
寂しいような気がするのは、

何故だろうね―――?

鍵の掛かったドアノブをねじ切って外し、そのまま扉を引き剥がした。飛び跳ねるように身体を震わせたミツキが、俺から逃げる。

彼女から響く鼓動が、俺を誘う。
甘い甘い、俺を惹き付けて離さない処女の血の香り。
作り事のように、経験のあるなしで味が変わるわけではないが、誰の手も触れていないことが嬉しくて。

まだしっかり意識を保っているミツキを壁際に追いつめて、青ざめた顔を覗き込む。

こんな状況だと言うのにまだ負けん気を発揮して、こちらを睨み付ける彼女が愉快だった。

気に入っていたのに。
本当に残念だ。

優しくしてあげるから、その精血を、俺に捧げてくれるだろう……?

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