餌と
三階に来た辺りで、戸惑いながら「どの辺りで見かけたんだ?」いかにも心配、と言ってみせると、いきなり空き部屋のひとつに引っ張り込まれた。
部屋に入った瞬間に、探していた人物の香りに気づいた。
続き部屋に、ミツキがいる。
その時にはジャネットがキスを仕掛けていた。ネットリと口づけてくる女から感じる、優越感、高慢な蔑みと、貪欲なまでの独占欲。
おおよその経緯は掴めた。
目障りな留学生に、自分との関係を見せつけて、思い知らせようということか。
残念ながら俺は餌に縛り付けられるつもりもないし、そこで覗き見をさせられているミツキだって、思惑通りにショックを受けている気配は全く感じられない。
……少しくらいは動揺してくれても良いんじゃないか?
しかしミツキがいるなら目の前で食事をするわけにもいかない。
まだ、彼女を味わうには早い――、すがりつくジャネットを振り払って場所を移ろうとしたが、愚かな女は俺の逆鱗に触れる。
この間からこの女の父親がやたらとコンタクトを取りたがっていたことには気がついていたが、縁戚を結ぼうとしていたとは。
たかが人間が。
餌のくせに、我ら一族を取り込もうなどと思い上がりも甚だしい。
俺の気を引き付ける精血を持っているわけでもないのに、お前ごときがこのアレイストの花嫁になれるとでも、一瞬でも思ったのか――?
もういい。
全部消し去ってやる。
いつもと様子の違う俺に怯えた様子を見せる女の首に口付けた。味わうこともせずただその命の水を啜る。
記憶を弄るためだけに。
我らが優れた容姿や能力を持つのは、全て生存するために備わったもの。
美しい外見に、カリスマ的能力に、まるで暗闇の灯りに集う蛾のように、餌は引き寄せられる。
喰らわれるために。