焦りの意味
「――ああ、アストリッド? ミツキは帰ってる?」
念のため、とアストリッドにも確認すると、
〔 帰ってないよ。せっかく可愛くしてやったのに、まだ会ってなくてこんな電話かけてくるってコトは、ヘマしたな? だから言わんこっちゃない 〕
軽く罵られた。
コールを繰り返してもミツキは出ない。
チリ、と苛立たしさが俺の頭を支配する。
何に対して?
誰に対して?
たかが玩具が見つからないだけで何を苛つく必要がある――?
どうして今すぐミツキの無事を確かめたいような気分になるのか。
初めて覚えるその感情が、焦燥と不安だということをその時の俺は知らなかった。
「アレックスったら! もう良いじゃない、あんな子ほっといて、ねえ、久しぶりに私と……」
腕を引かれ、豊満な肢体が押し付けられる。
ああうるさい。
抱き心地は悪くなかったが、俺を自分のものだと勘違いするようなら、そろそろ消し時かもしれないな。
「……悪いけれど、約束していた子がいなくなっているのに、他の女の子と遊べるほど無責任じゃないんだ」
今までお誘いを断られたことのない女王サマはムッとしたあと、そう言えば、と声を上げる。
「研究棟の辺りに行くのを見た気がするわ。私も一緒に探すから行ってみましょう」
どうやらお誘い方法を変えてみることにしたらしい。
積極的に腕を引っ張ってそちらへ向かおうとする。
研究棟ね……空き部屋が多いから、逢い引きにはちょうどいい場所。
どうやらこの女がミツキの行方に関係していそうなのは間違いないので、頂いたあと口を割らせることにしようか。
棟へ向かう道々、しきりにミツキの悪口を吐き出す女。
よほど俺が彼女に気を惹かれているのが気に入らないらしい。
こんなに頭の悪い女だと思ってなかったが。
「……アレックスの気分が悪くなるだろうと思って言わなかったけど、あの子いつも男に媚を売ってるのよ、品位を疑うわ」
――お前みたいに?
そんな浅はかな作り事を俺が信じると思っているんだろうか。
だいたい、ミツキが他の男に媚を売れるほど会話が達者なら、俺に振り回されてはいない。