思い通りにならないのは
何かと引き止められて、カフェテリアへ行くのが遅くなった午後。
こういうとき、優等生の顔をして日常を送っているのが面倒になる。
周りとの軋轢を生まないための処世術とはいえ、自分らしく振舞いたくなることもしばしば。
一族の年寄りどもに若造扱いされる所以だが。
すれ違った奴がミッキと待ち合わせなんだろう、とからかうように言うのに、何故知っているのかと訊ねると、カフェテリアで見かけた、と。可愛い子だと思って声をかけたら、小猿さんで驚いた、なんて。
「女の子は化けるよなあ。他にも気にしてる奴がいたから、早く行ったほうがいいぞ」
何故かその言葉を聞いた瞬間、苛立ちと焦りが俺を襲った。
アストリッドめ。
ミツキを着飾るにしても、目立たないようにするとか、普通にするとかいう考えは無かったのか?
普段のミツキとはかけ離れた変装をさせたんだろう。
いつものように面白がって。
そんなミツキは望んでいないのに。
「アレックス!」
足早に待ち合わせ場所に向かう俺を、女の声が呼び止めた。
ミツキが半笑いで言うところの“お取り巻き美女1位”、俺の恋人候補だと思い込んでいる金髪のジャネットだった。
急いでいるところに、邪魔だな、という考えは表には出さず、やって来る女に「やあ、」と柔らかく笑む。女はするりと俺に腕を絡ませて、当然のように寄り添ってくる。
「ジャネット、何か用事かい? 急いでるんだけど」
媚びを含んだ視線が煩わしい。
すでに授業が終わってからかなり時間がたっている。ミツキのことだ、怒って帰るかもしれない。
他の娘ならいつまでだって待っているだろうけれど、彼女は読めないから。
「知ってるわ、あの子と約束してるんでしょう? 急がなくてもいいわよ、どこかに行っちゃったみたいだから」
クスクス笑う女を見下ろす。
しなだれかかる身体を避けて、待ち合わせのカフェに電話を掛けた。
ミツキ・アキハを呼び出してくれと頼むと、そのお客様はいらっしゃいませんという返事。
なんの断りもなく、ミツキがどこかへ行くはずはない。その辺り、彼女は律儀だ。
彼女に支給されたモバイルフォンを呼び出すが、出ない。
俺が電話を掛けている横で、無視された形になったジャネットが、唇を尖らせて拗ねた素振りをする様をちらりと眺めた。タイミングの良すぎる足止め。
ジャネットたちが俺の関心を集めているミツキを気に入ってないのは承知している。
………してやられたか。