王子とミツキ・3
常に自分を避けるようにしていたミツキが、チラチラと視界の端に引っ掛かるようになったのにはすぐに気付いた。
さすがの彼女もそろそろフェロモンにやられてしまったのか、ならつまらないな、と思ったのだが、どうも様子が違う。
ジッとこちらを窺うというか探るというか、観察するような気配なのだ。
まさか一族のことがバレたわけでもないだろうし(普通考えたりもしないだろう)、一体どういうことなのか。
「――やあ、ミツキ。最近よく君と目が合う気がするけど、やっと運命の女神が微笑んでくれたのかな?」
そう嘯きながら、逃げにかかるミツキを腕で囲い込んだ。
ニッコリと笑みかけると、いつも通りに嫌な顔。
『運命の女神て何や、』不審そうにつぶやいたあと、そうですか?とごまかし笑う。
「一緒の講義がないから、今日は君に会えないかと思っていたよ、嬉しいな」
微笑み言う俺に、全然嬉しくない、という表情を見せる。そういう態度だから楽しくなって、かまってしまうのに。
まったく、お馬鹿さんで可愛いね?
回廊の影や建物の隅、あちらこちらからミツキに向けられる敵意。それに気づいているらしい彼女が俺との会話に上の空なことを逆手にとって、デートの約束をする。
What ? の意味を含む Yes ? をこちらの良いように解釈して。
ミツキと仲の良いアストリッドが盗み聞きをしていることはわかっていたので、混乱したままの彼女を放置した。
さて、素っ気ないTシャツやジーンズしか持っていないらしいミツキは、ジャンシール家の御曹司とのデートにどう着飾るつもりかな。
アストリッドがなんとかするだろうが、困り果てている彼女をブティックに連れていって、弄るのも楽しかったかもしれない。
次のときはそうしよう。
自然と笑みがこぼれる。
いつになく上機嫌な気分は、楽しい玩具で遊ぶ機会を手に入れたことによるものだと、俺は疑いもしなかった。