王子とミツキ・2
「――お前ね、その傲慢な態度、今のうちに直しておかないと、そのうち刺されるよ」
そう言ったのは叔父の妻。彼女も、自分に遠慮なくものを言うことが出来る珍しい一人だ。
「俺を害せる者がいるとでも? 叔母上」
「叔母上ゆーな。ったく、あの子も災難だよ、アンタなんかに気に入られてさ」
「大切に接しているつもりだけど?」
ニコリと笑う俺を嫌そうに見て、“叔母上”は救いがたいと言わんばかりに首を振った。
「取り巻きに絡まれているのも放置のくせに、大切が呆れる」
その言葉に、いつも自分の回りに群がっている女たちがムキになってミツキを貶めている光景が浮かぶ。
醜いことだ。
器が少しばかり良い出来でも、魂が卑しければ血は澱むばかりなのに。
――ああ、だから自分はミツキをかまうのか。
裏表ない、感情を健やかに保つ、清い精血を求めて。
女たちに囲まれながら、心底不機嫌にブツブツ自分の悪口を言っていたミツキを思い出して笑いが漏れた。
『……なんであたしがこないな目にあわなあかんねん、時間の無駄にもほどがある、アンタらもしょうもない小娘にかまっとらんとそのお美しい顔にイヤミジワが出来んようパックでもしとった方がよっぽどアレイストの野郎は喜ぶんちゃうか、あのクソ王子、女の躾けくらいしっかりやっとかんかい、てゆうかお取り巻きがこんなオンナばっかりて見る目ないんちゃうか、しょせんあの王子も男っちゅーことか、美人がそんなにええんか俗物めっ』
彼女たちに分かるはずもない日本語でよどみなく訴えかかるミツキを気味悪く思ったのか、女たちが捨て台詞を投げてそそくさと去っていく様子は愉快だった。
「あれくらいでへこたれるような娘じゃないだろ。……泣きついてくれてもそれはそれで楽しいんだけどね?」
まあ、自分の玩具を他人に好き勝手されるのも我慢ならないので、そのうち釘を刺すくらいはしよう。
“自分の玩具”。
そう思っていた俺は、完全にミツキを舐めていたと言わざるをえない。