神の民(二)
――そういった意味で、人外である『彼』の方が、自分と近い存在だと思うのは納得のいくことだった。
その皮肉に笑い出したくなる。
彼女もまた、ヒトとは違う異端の生物。
――わたくしもあの方も、己の群れの中でたった独り――
自分を慕う者がいても、家族がいても、孤独が胸の片隅に在る。
同じ孤独を抱える自分たちだから、違う種でも共犯者に成り得るのだろうか。
彼女の逡巡をどう思ったのか、長は言葉を重ねる。
「彼の者らが宵闇の一族だと言うことは、我らも理解しております。どうやら我々に彼らの力は及び難く、意識を確と保っていれば対することも可能。どうぞ命を、姫」
改めて、シーアは跪く民たちに目を向けた。
俯いていた彼らは今は顔を上げ、どの者も、静かな覚悟をたたえた瞳をしている。
真摯なもの。緊張したもの。そしてどこか挑戦的なもの。
変らないのは、シーアに向けた信頼の想いのみ。
盲信だけではない意志を感じて、シーアは民を見くびっていた自分に気づいた。
巫の血を引く者に力が効きにくいことは、兄と母方の親族でもある侍女リエザの例を見てもわかることだった。
だからこそ、シーアは巫の地をアレイストの一族に与えたのだ。
神子の民が抑えてくれることを願って。
――呑み込むか、呑み込まれるか。
――喰うか、喰われるか。
アレイストたちが歴史の影で蠢く闇ならば、巫の民は影に溶ける闇。
周りを取り囲む国々に潜み忍び、罹る惨禍を逃るため力を尽くしてきた。
このリストリアという小国を裏で支えてきた者たちの真価を、彼らに見せてみようか。
思い通りに行かずに戸惑う彼らの顔を観るのも、愉快かも知れない。
シーアの唇が弧を描いた。
彼女の決意が伝わったのだろう、皆の意識も上向く。
「――ディルナシアが命じます。彼らの内に溶け込み、追従しながら、そうと気づかれぬように能力の全てを以て操作してみなさい」
傲然と、抗うことを許さぬ強さで神子姫は配下に命を下した。