神の民(一)



「――わたくしは今、皆に非道を強いようとしているのかもしれません。あるいは、わたくし自らが負わねばならぬ責を押し付けようとしているのかも――」

また、すべきではない懺悔をこうして口にしていることすら、自分が楽になりたいがための行為かもしれない。

唇を結んだシーアは、目の前に跪いて頭を垂れる彼女の民たちを見つめた。

何を言っても繰り言。
自身の悔いも驕りも何もかも呑み込んで、それでも語らねばならないのだ。

告げる言葉に惑うシーアを、巫(かんなぎ)の民を束ねる男がまっすぐに見上げる。

「ディルナシア様。我々はもとより貴女様の僕(しもべ)。神子のための命でありますれば、如何様にもお使いくださって構わないのです」

妄信的と言っていいそれに、シーアは眉を曇らせる。

彼女の言うこと為すこと全てを受け入れる、それはとても危ういこと。
民たちの信奉を苦く思っている自分が、それを利用して使ってもいいのだろうかと、今さらながらの迷いが過ぎる。


ディルナシアの母は巫でも特異な家の出だった。
彼女の力はその母から受け継いだものだ。
国が出来る前、それより先にこの地には古き神を祀る人々が住まうていた。

彼らの中には、時折異質な力を持つ者が生まれ、その子らを神子と呼び慣わし、頂点に置き仰いでいた。

ほんの少し五感が優れていたり、勘が良かったりと言う人間は、常人の中にも強弱はあれど存在しないわけではない。
ただ、古き神の民に特別多く現れることが、神子とそれを拝する民たちを特別にした。

神子たちはその能力を最大限に生かし、数多の災いを避け、自らの文化を守り、生き残ることに全力を注ぎ込んだ。

そしてやがてその力に縋り、あるいは利用しようと集まった人々の中から優れた統治者が現れるに至って、リストリアという国が建つ。

王と神子と力は二分され、お互いがお互いを補い、息を潜めるように周辺諸国の興亡を見守りながら時代は過ぎ――神子の中でも随一の力を持つディルナシアが生まれる。

特別の民の中でも、今までシーアのように万物にその意思を響かせるなどといった、強力な力を有する者はいなかった。

彼女は、生まれたときから、現在(いま)このときも神の娘。彼らの古き神の力を体現する者として、崇められ仰がれる立場だ。




*前目次次#
しおりを挟む
PC TOPmobile TOP
Copyright(c) 2007-2019 Mitsukisiki all rights reserved.

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -