捕獲。
こんなときだというのに余計なことを考えてしまった私は、後ろから迫るものに気づくのが遅れ。
扉に取りついて開けようとした瞬間、
――ガンッ!!
一歩間に合わず、後ろから伸びてきた腕が叩き壊すような勢いで扉を押さえた。
もう一度武器を使う間もなく、手を捻り上げられる。私の手から落ちたスタンガンを、アレイストが素早く蹴って。
カラカラと床を転がる音に、命綱がなくなったことを理解し、焦った。
もう復活しょった!
その丈夫さ卑怯やないかい、吸血鬼ッ!!
『っ、痛い痛い痛いこのサド! か弱い女の子に何しやがるっちゅうのエセ王子、アホンダラ――!!!』
後ろ手に私は両腕を拘束され、扉にめり込みそうなくらいの力で押さえ付けられていた。
アレイストの身体でもって。
せやからセクハラやっちゅうねん!
「いっ!」
頤を掴まれて、無理矢理顔を上に向けさせられる。
息のかかる近さで、炯炯と赤い瞳が探るように私を見た。
なんやねん、もー慣れてきたし恐ないわ、赤目玉!
拘束されたままギロリとアレイストを睨み付けた。負けてたまるか、なんておかしな対抗意識を持って。
「……イミューン……? そうか、だから――」
どこか呆然としたつぶやきをアレイストが漏らす。
そして、次の瞬間。
アレイストは、至極嬉しそうに笑った。
それは私が初めて見る、本物の、全開の、笑顔で。
意外すぎて、ウッカリそれに心を奪われてしまった私は、掴まれた手の力が緩んだことにも気づかなかった。
逃げる最後のチャンスだったのに。
「ミツキ……俺の―――……」
「っ!?」
後頭部を掴まれのけ反った首筋に牙が埋まる。
ブツ、と皮膚が破ける音。
「あ……、あ、」
ズルリと私の命が引き出される感覚に、茫然と意味のない声が唇から溢れる。
食むように吸い付くアレイストの口腔に私の血潮が流し込まれていく。
手先が冷えたように痺れて、自分の身体が力を失っていくのをどこか他人事みたいに感じて。
せめて骨は日本に――なんて、この期に及んでもつぶやく、まだ余裕のある自分の思考がやけにおかしかった。