猫だましを喰らわせる


――そもそも、最初っから気に入らなかったんだ。

この国に来て、学長室でアレイストを紹介されたとき。
他のみんなは映画スクリーンでしかお目にかかれないような美貌を持つ彼にただビックリして見とれるだけだったけれど、天の邪鬼な私は、素直に感心できなくて斜めにソイツを見て――その笑顔の中にある侮蔑に気づいた。

とるに足らないものを見る瞳。

それは東洋人に対する偏見から来るものかと思っていたけれど、アレイストが人間ではないと知った今、ただ単に、自分より劣った生き物を見る瞳だったことがわかる。

吸血鬼。
ふうん、そう。

だからってあたしらを馬鹿にしていいってもんやないやろ。

だいたい、人間の血液を必要とするくせにその必要なものを持っている相手を見下す根性がわからん。

私は食事するとき、ちゃんと手を合わせてイタダキマスをする。
私の身体を生かしてくれる命に対して感謝する、それが小さい頃から当たり前にしていて、忘れがちだとしても、大切な儀式だということをどこかで意識している。

それが何?

倒れたまま床に放置したり、壁に追い詰めて変質者のようにイタダキマスもなしに首にかぶりつこうだなんて、

 ヒトを馬鹿にするのも大概にせえっちゅうの―――!

「ッうア!」

 それを押し当てた瞬間、ビクリとアレイストは身を跳ねさせた。

『ザマ見ぃ! このセクハラ吸血鬼! 変態! 女の敵ッ!!』

衝撃を受けた脇腹を押さえ、膝を落とした彼の身体を潜り抜け、私は捨て台詞を投げつつ出口に走る。
護身用に持っていたスタンガンを握りしめたまま。

吸血鬼に効くかわからんかったけど、遠慮は無用とばかりに最大にしたのが良かったのかもしれん。

“襲われそうになったらこれでやっちゃいなさい”

と、着せ替えされてるときアスタに持たされたんだけど、まさかホントに役に立つとは。襲われる意味が違ったけど。
とりあえず変質者としてしかる機関に突き出してやる。

私だって奴が吸血鬼なんだと訴えて、アッサリ信じてもらえるなんて思ってない。
でも少なくとも婦女暴行未遂犯としてなら多少は信じてもらえるんじゃない? と姑息に考える。

アレイストがこの国で力のあるお貴族さまの一員だとしたら揉み消される可能性大だろうけどさ。時間稼ぎくらいにはなるだろう。
その間に理由をつけて日本に帰ってやる。
いくらなんでも追いかけてきてまで口封じなんて――あれ?

 アレイストが吸血鬼ってことは、彼の家族もそうなん?

ってことは、ヤツの一族に関わりのあるお偉いさんたちだって、もしや――?


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