未知
日本の文化に造詣の深いアストリッドは、何となく私の言っている意味がわかったのか、ああ……、と遠い目をして頷く。
こんなんで婦女暴行未遂の罪が償える思たら大間違いやけどな!
なんなんだこの女はと不審たっぷりな目で私を一瞥したあと、クリストフェルは一番話が通じそうなハルさん相手に口を開いた。
「あなたもコレに懐柔されたのか。それほど次代を欲するか」
「それは巫女の騎士に対する侮辱かい。たしかに彼女は魅力的な女性だけれど、未来の妹に手出ししようとは思わないな」
ん? どゆ意味?
ハルさんの謎の言葉を聞き返そうとする、私の思考が本来の目的から脱線しそうな気配を察したアストリッドが、ストップをかける。
「ミッキ、長居は無用だよ。言いたいことあるんじゃなかったの」
せやった。あんまり時間かかると上から落ち着きのない男が迎えに来よる。
憂さ晴らしはひとまず置いといて、私は彼に向き直った。
整った顔が無表情に私を見返す。その瞳の中に私は映れども、認識されてはいない。
何も見ていない。
意思の通じ合えない何かがそこにはあって、その通じなさを、私は恐れるのだ。
ある意味、乱暴されかけたことより、わからないことが、怖い。
こうして捕らえられてはいても、彼はどこか余裕を持っていた。
「――クリストフェル。あなた、何がしたいの?」
その問いかけに、クリストフェルはただ薄く笑った。