虜囚
『うわ笑ける』
モノホンの牢屋に入れられた奴を見ての、私の第一声がそれだった。
背後には渋すぎる顔をしたアストリッド、そして牢の見張りをしていたベルンハルトさん。
アレイストはうるさいし置いてきた。
ええ、何とかお願いして、ここに来るお許し頂きましたがな。最後は怒鳴りあいになってしもたけど。
……あれ? 穏便に済ますはずやったのにおかしいな。
牢という言葉から連想していた、ジメジメ・なんか出そう・陰気臭い、なんてものとはぜんぜん違っても、牢は牢だった。
頑丈そうな石造りで(まあこの城は基本石やけども)、三畳ほどに区切られ、窓もなく、こちら側とを分けるように鉄の格子がしっかり嵌っている。
てゆうか、これ壊されたりせえへんのやろか、人外相手に。
「鉄柵の中に、銀が流してあるんだよ。下手に壊そうとすれば、飛び散る」
私の疑問に気付いたらしいハルさんが教えてくれて、ほほうと納得した。
ビックリ檻なんかー。
「……なんの用だ」
牢の中にはそっけないベッドとテーブルがひとつずつ。そのベッドに足を投げ出し、石壁に背中を預けた偉そうな態度で、クリストフェルがこちらを見やった。
その手足は長い鎖が繋がった枷が填められていて、ソレどんなSM、とひとりごちる。
もうチョイ憔悴した表情してくれんと萌えんわあ。期待してたんとちゃうけどまあええかー。
ポケットからモバイルフォンを取り出した私は、おもむろにその虜囚の姿を撮影した。
パシャリとマヌケな撮影音のあと、眉をしかめるクリストフェル、首を傾げるハルさん、アストリッドの脱力した問いかけが私に投げられる。
「ミッキ……。どうすんのこんなの撮って」
「モエー、ですよ。私の日本の友人に、リビドー、起こせる、フォト送れ、言われてます。びーえるです。クリス、ソウウケです」
ちなみにアレイストの写メも送ったことあるけど、アイツは彼女の琴線には触れなかったらしい。
なんかちゃうねん! ツッコメへんねん! と返事が返ってきてた。
あんなツッコミどころ満載な野郎は居らんと言うに。
『佳奈はその筋では売れっ子なんや! ヤツの糧になって不特定多数のオトコどもに散々に弄ばれるがいいわ! 新刊出来たら見せてやる! 慄くがいい!!』
片手でメールを送信しながら、もう片手でビシリと指差し宣言してやった。