花嫁(二)
その曇りない笑顔に、シーアは密かに安堵の息を漏らす。
操られた部分もあったとはいえ、身も心も捧げた恋人に裏切られ、泣いていた影はもう見えない。
あの日、アレイストとの話し合いを終えて戻ったシーアが目にしたのは、妹に跪き、すがりつく勢いで許しを乞うているエイスールの姿だった。
妹の懐妊を知った兄王は、にこにこしたまま剣に手を伸ばし、「うん、じゃあ殺しておこうか」とそのままエイスールの処刑を実行しようとするし、収めるのが大変だったのだ。
よほど放っておこうかとも思ったが。
結局、身持ちを疑うようなひどい言葉を向けられたとはいえ、あちらの事情を知ったリースティアがほだされ、エイスールの改心もどうやら真実のようなので――改めて、求婚を受け、こうして結婚の日を迎えた。
が、やっぱり面白くないのは面白くない。
リースティアが選び、幸せになるのなら、と我慢しているだけで、兄もシーアも花婿にイヤミでも言わなきゃやってられない、と思っている。
この件に関しては、なにがあろうとも譲れない。
――それに。
「私にも出来ることがあるんだもの。この子と一緒に、守護様一族との最初の架け橋になるわ」
微笑む妹を、シーアはもう一度抱きしめる。
妹を贄にするつもりはなかったが、この状況が、望まずともそうなってしまった。
リースティアは、この後エイスールと共に、彼らに与えられた領地に入ることになっている。
本来なら、ディルナシアがすべきはずの、役目を持って。
彼ら――吸血の一族と、リストリア王家の密約の質として。