花嫁(一)
蒼と白と金、リストリア王家の紋と母の家印を刺したブリオーを、リースティアは指先で何度も撫でた。
着ることが叶うと思っていなかったこの花嫁衣装は、亡き父母たちが用意していた布地を使い、最後の仕立てを姉姫が行なってくれたものだ。
肌着の刺繍は今日のため自らが。
胴から腰を後ろのリボンで締めるのが最近の流行りだったが、都合上それは無理だったので、胸元にたっぷり襞を寄せて、すぐ下で落とす形になっている。
「リースティア、綺麗ね」
振り向くと、白と翠を基調とした神子服姿の姉姫が、白い花冠を手に微笑んでいた。
「……姉さま」
一つに編み込まれたリースティアの金色の髪に、早朝手ずから摘み編んだ薔薇の花冠を飾乗せ、シーアは満足げに頷く。
まだ少女の可憐さが勝る妹には、小房の一輪花が良く似合う。
「もうお兄さまったら大変よ。“やっぱり許すんじゃなかった、今からでも中止に”ってごねて皆に叱られていたわ」
くすくすと柔らかな笑い声を立てたシーアは、花婿側から貢ぎ物として渡された薄い絹のベールで、潤んだ瞳の妹姫を包み込んだ。
心持ちふっくらした身体をその上からそっと抱きしめる。
彼女の不安ごと、受けとめるように。
「……本当は私もお兄さまも、あなたをこんな風に手放したくないのよ。あちらで何かあれば、すぐに言うのよ?」
「姉さまったら」
大丈夫、とリースティアは答える。
拗ねた見方をしていた今までの自分が馬鹿だったと思うくらい、充分に兄姉に愛されていると、わかったから。
「一人じゃないんだもの。頑張れるわ」
仄かに膨らんだ胎に手をあて、微笑んだ妹からは、母親としての自信が見てとれた。
そこに、考えも行動も幼かったつい先日までのリースティアの面影は、ない。
妹の成長を喜ぶべきだと分かっていても、面白くないと思う自分がいる。兄もそうだろう。
むう、とシーアは子どものように唇を尖らせた。
「あの愚か者のところになんて、やりたくないわ。やっぱりあのときに叩っ斬っとけばよかった」
空を斬る動作を付けながら言う姉に、妹は吹き出す。
「姉さまがそんなことばかり言うから、あの人、大の大人だというのに、姉様の前に出るときいつも怖がっているのよ」
「当たり前よ、我が家の大事な妹を泣かせておいて、額突(ぬかづ)いたくらいで許されると思ったら大間違いなんだから」
ブツブツと繰り事を返す姉に、リースティアは笑った。