追い詰められて


たったひとつの出口はアレイストの背後にあって、逃げ道は塞がれた状態。ベタリと壁にへばりついた私は、ぎゅっと身を縮こまらせる。
手を伸ばせば触れる、そんな近くまで来てから、アレイストはささやいた。

「……残念だな、ミツキ。君のことはかなり気に入っていたのに……味わうのはもう少し、後にしたかったけれど……」

 味わうって何をやーー!
 てゆうかやっぱり裏があってかまっとったんやなぁ!?
 あたしを美味しそうな餌あつかいしとったんかい!
 そのせいで見当違いの嫉妬に晒されて偉い迷惑したやんけ!

ギロリと睨み付ける私を、ふと意外そうに見つめて瞬きしたあと、彼はクス、と愉しそうに笑った。

「……そういうところがとても興味深かったんだけど、

 仕方、ないよね……?」

忘れて貰うよ、と言ったあと、異形の瞳が私に向けられた。

赤く赤く輝く、その瞳が私を捕らえる。

すっ、と静かに手を伸ばしたアレイストが、動かない私の頬を撫で、首に指を這わせ、サラリと肩に下ろしていた髪をすくう。

「――本当に、残念だ……」

恋人に睦言をささやくように、甘やかに熱っぽい瞳をしたアレイストは、私の首に唇を押し当てた。

首筋にヒヤリと鋭いものが宛がわれる。

牙、が。


 ―――私はその瞬間を待っていた。

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