真月の一族


 ――“彼ら”という生き物がいつ誕生したのかはわからない。気付いたときには世界に在った――


「我々は真月の一族。ヒトより永い生を持ち、ヒトより強靭な肉体を持ち、他者の命を喰らって生きる――ヒトの上位に立つモノ。貴女がたから見れば、魔物と呼ばれるものかも知れませんが」

目の前の男は笑みさえ浮かべて淡々と言葉を紡ぐ。
彼女がどのような反応をしても、それは覆しようのない現実だと示すように。
にわかには信じがたい内容だが、シーアは不思議なほど冷静に納得していた。
――そう、彼らが常ならぬ者共だというのは、最初からわかっていたことではないか。

心を惑わすまなざし。
従うことを強いる声。
国王であろうと跪かせる、強制力。

この国で彼らに対峙できたのは、異能を持つ自分だけだったのだから。

「……魔物にしてはお行儀が良ろしいのね?」

エイスールと妹姫の例を除けば、今のところ目立った揉め事は一切起こってはいない。彼の民の移住が済み、日がたてばどうなるかはまだわからないが。
驚くでもなく疑うでもなく、こちらの言葉を静かに受け止めた娘に、アレイストは密かに満足する。こうでなければ、取引などしようもない。
先日言った通り、当初は真族のチカラによる支配で、この国に棲まおうと思っていたのだ。それは、一族が存在してから幾度も繰り返してきたこと。場所を変え人を変え、移ろいながら存続してきた。
今回も、そうするはずだった。彼女というヒトに、出逢わなければ。
一族が次代を残しにくい身となったことを悟ってから、ずっと考えていた計画。彼女ならば、それを共有できる覚悟と知を持っている。
あとは、我々がどういう生き物か真に理解されるかどうか。

「命を喰らうとはどういう意味」

斬り込むように問うた彼女を、アレイストは測るように見つめてから、窓の外、咲き誇る薔薇の庭に視線を流した。

「見事な薔薇ですね」
「……どうも」

はぐらかすつもりかと睨むシーアに苦笑を落として、彼は立ち上がる。外へ繋がる窓を押し開け、緑濃い庭へ出る彼を、訝しく思いながら彼女も続いた。

「命を喰らうとは、そのままの意味ですよ。貴女方が口にする多くの食物と同じように――我々は、他者の生、その源(みなもと)を食す」

一輪頂いても? と窺う言葉に頷いた彼女は、次の瞬間瞠目した。
ひときわ見事に花開いた一枝。
それを折り採った男の手の中でクルリと回される。
シーアが見ていることを彼は確認して――何をした、と思う間もなく、花弁が震えて力を無くし、萎れ、枯れ、ザラリと砂のように崩れ落ちた。

「――良い気が満ちている。貴女の側だからかな」

花があった指先に唇を寄せて、彼は目を細めた。

「植物からはこのように生気を。――そして、ヒトからは」

立ちすくむ娘の首筋に、その指を宛がう。

「身の内に流れる命の滴(しずく)を――」

我らは糧にするのですよ、と、感情の見えない赤い瞳が囁いた。


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