告げられた秘め事は、


泣き疲れた妹姫を侍女に任せて、シーアは待たせていたアレイストの元へ向かう。
彼女が部屋へ入ると、彼は窓の外に広がる薔薇を見ていた。声を掛けるまでもなくシーアが現れたことに気づいていたように、ゆるりと振り返った。
先ほどのだらしない姿は整えられ、誰もが見とれる美丈夫――だがディルナシアが今さら彼に惑わされる訳もなく。
彼の艶やかな笑みにも冷ややかな一瞥を与えただけで、素っ気なく席へと促した。

「妹君の具合は?」
「落ち着きましたからお気遣いなく。手っ取り早く申し上げますわね、例の不埒者を兄と私とで血祭りに上げますから引き渡してくださる?」

ハキハキと躁気味な笑顔で物騒なことを述べる姫に、彼は苦笑した。

「シーアどの、お怒りはもっともですが、アレの弁明も聞いて頂けませんか」

その言葉に、シーアの琥珀色の瞳が強く煌めく。

「弁明? 何の弁明ですか未婚の娘を孕ませた言い訳? 恋の戯れ事は両方に責任があるとは思いますけれど、リースティアはまだ子どもを抜けきれぬ娘、耳通りのよい言葉に惑わされても仕方がなくもありません? どうせわかっていて弄んだんでしょうけど! ――ですが、あの発言は最悪ですわね、あの場で無礼討ちにされても文句は言えないとお思いにならない? わたくしの侍女以外にも女官を連れていたら即、皆で袋叩きにして差し上げたものを」

かつてないほど姫が熱を持ってこちらに近づき、饒舌になっているというのに、内容は頭を抱えたくなるもので。
アレイストは自室で悶々としていた従兄弟の姿を思い浮かべ、恨み言のひとつも言いたくなった。
しかし、一応は彼のために弁護を試みてみるのが身内としての務めだろう。
ため息を吐き出しそうになりながらも、興奮する姫をこれ以上挑発することのないよう彼は言葉を選ぶ。

「……いや姫、そもそもの、その発言をですね、お二人とも誤解なさっています。エイスールがああ言ったのは、妹姫の真心を疑うわけではなく、」
「責任を取りたくない殿方の言い訳ってやつですか」
「そうでもなく――」

打てば響くように返ってくるシーアの言葉の刺々しさに、全くなぜ自分が、と少し前に他の誰かも思った疑問を飲み込む。

「彼の妹君への行いを庇うわけではありませんが、エイスールがああ言ってしまったのも無理はないというか――」

どうせ、いずれ近いうちに彼女には話すつもりだったのだ。
この際だから、全て晒してしまえ、と彼らしくもなく自棄になったアレイストは、それを言葉にする。
有り得ないと思っていた事態に、彼も常の思考が出来ていなかったのかもしれない。
冷静ならば、そのような一か八かの賭けはしなかったはずだ。まだ彼女が自分を理解してくれるとも決まっていないのに。

 ――だがそれが、彼と彼女のこれからを決定付けたのだとも言える。

「――ここ百数年、我々には次代が生まれることがなかったもので」

シーアはひとつ瞬きした。
聞き間違いかとも思ったが、彼はそんな彼女の反応は了解していたと言わんばかりにじっとこちらを見つめている。
知らず、眉が寄る。

「……百、数年と仰いました?」

数年ではなく?
疑問を向けた娘に、アレイストは頷く。

「ええ。正しくは、百二十一年前に生まれた者を最後に、我が一族に新しい生命は誕生しておりません」

どう見ても二十歳後半にしか見えぬ青年が、ハッキリとそう告げた。


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