芽吹くもの
先日二人きりで話したことで、わずかに緩んだ彼女の警戒心が再び強固になっている。
気をつけろと言ったのに。
さて、あいつは何をやらかした――?
宥めるように言葉を重ねながら、アレイストは思念を飛ばして従兄弟を呼んだ。
一族のもとへ使いに出し、昨夜遅くに帰ってきたエイスールは、まだ眠っていたのだろう、慌ただしく返事をしてこちらへ向かう気配を見せる。
早くしろと言い置いて、姫に視線を戻す。
射抜くような琥珀の瞳を濃く染めて、通常の冷静さはどこかへやった彼女に、窺うような笑みを向けても睨み返されるだけ。
ほどなくしてエイスールが姿を現した瞬間、烈火さながらの気を立ち上らせたシーアが彼に神子の力を向けた。
ビリリと白光が走る気配に、アレイストが目を見張る。付き合いの浅い彼にも、珍しいとわかる姫の荒々しい態度に。
「何事でしょう……ディルナシア様?」
確とした心当たりがないのか、戸惑った面持ちで王女に対する礼をとった彼に、シーアは氷のような一瞥を与えた。
――そうして、彼らにとっての衝撃を叩き込む。
「リースティアが身籠りました。――覚えはあるわね?」一瞬の空白から立ち直ったエイスールが溢した言葉は、その状況としては最悪のものだった。
「――まさか、私の子ではあり得な――」
シーアの細く白い手が閃いた。
腹を押さえて崩おれた従兄弟にアレイストは瞬く。次いで、自分の胸ほどしかない姫に素早く視線を流す。
「よくもそんなことを……! わたくしの妹が誰彼構わず身を許すと思うのですか!」
どこに隠し持っていたのか、こちらが気取る間もなく短剣の柄を目の前の青年のみぞおちに叩き込んだ娘が激昂しながら身を震わせ叫んだ。
連続してのあり得ない事態に、いち早く我に返ったアレイストは、慌ててシーアを腕に押さえ込む。
「姫……! とりあえず落ち着いて下さい、エイスールが言ったのはそういう意味ではなく、」
「お離し! 素っ首たたっ斬って城壁に吊るしてやるわ!」
いやいやいや。
聖なる神子姫がそんな物騒なことを宣言してはいけないんじゃないだろうか。
ジタバタ腕の中でもがく姫に閉口しながら、さてどうするかと思案したその時、弱い声が回廊の端から聞こえた。
それにシーアも気づいたらしく、ピタリと暴れるのを止め、アレイストの腕を押し退ける。
当の妹姫が侍女に支えられながらこちらへ来ようとしていた。
「リース? 駄目でしょう、休んでなきゃ……!」
「姉さま、でも、」
天真爛漫な様子は姿をひそめ、弱々しく姉に抱き締められている少女をアレイストが見つめる。