袋の鼠、
荷物のように彼女が床に投げ出された。倒れた彼女は微動だにしない。意識を失っているのか、それとも死――、私は考えないようにして、息を殺す。
アレイストはそれこそ物を見る目で彼女を一瞥したあと、グルリと部屋の中に視線を走らせた。
慌てて窓から頭を引っ込める。私がここにいることは気づかれていないはずだ。このまま、アレイストが出ていってくれれば。
ヤバいどころの話ではないというのに、何故か頭は冴え渡っていた。
どくん、どくんと脈打つ自分の鼓動が外に聞こえないかと心配になる。
激しい動悸は「どうしよう、逃げなきゃ、何なんだコレ、」と驚いたまま私を急き立てるのに、醒めた頭は次に起こる出来事に対するために身体を動かしていた。
あり得ない事態に、夢でも見てるのかと失神して逃避したい気分だったが、あいにくそんなに可愛らしい神経をしていない私は、ゆっくりとこちらへ近づく足音をしっかりと聞き取っていたのだ。
「ひゃあッ!!」
―バギン!
そんな音と共に銀色のノブがひしゃげるように曲がり、ドアに背を預けていた私にその衝撃が伝わる。
引き剥がされるように、白い扉が壁から外れた。
「……ああ…こんなところにいたんだね、ミツキ。心配したよ」
そう言って、ドアを投げ捨て中へ入ってきたアレイストが、壁に飛び退くように身を寄せた私に、いつも通りの笑顔を見せた。
瞳は赤いまま。
「どうして待ち合わせ場所から離れたんだい? 探したんだよ」
心配そうな口調とは裏腹に、彼のまとう気配は気の弱い相手だと心臓を止めてしまうんじゃないかというくらい物騒で。
ただこうして対峙するだけでも気力を使う。
自分が敵う生き物ではないということが遺伝子レベルでわかるのか、私の身体は勝手に彼を恐れて震えていた。
小さな部屋の隅にいる私が恐怖の眼差しで自分を見ていることを重々承知で、アレイストはとてもとても優しく微笑んだ。
私が、うさんくさいと思っていたその笑み。