アストリッドの独白(6)
――銀。
それは我らを損なうもの。
それは我らを滅ぼすもの。
――それは、我らを救うもの。
まがい物の
銀などよりずっと、ミツキは“アルジェン”に近いのだ。
だからこその懸念。アレイストの想像が外れていればと思う。
何だかんだ、準備をしていたら楽しくなってきたらしいミツキが、はしゃいだ声を上げる。
『アスタもロルフも行くねんな〜? なんやメイドさんらも楽しそうにしてはったけど、もしかして城の皆で行くんか?』
それって民族大移動。と“ヒトリツッコミ”をしながら笑って。
『例の襲撃の件ではみんなに面倒をかけたから、アレイストが――なんだっけ、そうそう、慰安旅行? それをしようかって』
『太っ腹やな〜、アレイスト』
頷きが返ってくる。
あの件から、二人の距離が近くなったと思うのはあたしの気のせいだろうか?
アレイストのメロっぷりはエルンストも呆れるくらいだし、ミツキも――
あたしがその気配に気付くのと同時に、ミツキが荷物に落としていた視線をドアに向ける。
ほどなくして。
「ただいま、ミツキ。準備は進んでる?」
外の冷気をまとったままのアレイストが顔を覗かせた。
『おかえり〜、ってかホンマにどこ行くんかいい加減教えてっちゅうの。どないな気候? わからへんし、入れてく服選べへんやん』
自然に落とされたこめかみへのキスに、動じる様子どころか当然のように受け取る彼女がそこにいる。
膨れたミツキに甘い瞳を向けて、クスクス笑うアレイストは満ち足りていた。
すべてを手にする力を持ちながら、なにもなかった頃とは違う。
「そうだね、そんなに詰めなくても大丈夫だよ。必要になったら買えばいいし」
『あんたらはあたしをどんだけ衣装持ちにすれば気が済むねん。おじ様からも、こないだいっぱいもろたし、タンスの中もう入らへんで』
ミツキの口から出てきた“おじ様”の言葉にアレイストの笑みが固まる。
そうそう、意外なことに――いや、それも当然の結果かな?
ジャンシールの伯父上がミツキをとても気に入り、アレイストの留守を狙うように(いやあれは狙ってるな)彼女に会いに来たりしているのだ。
そのときばかりはザックリしたミツキも、可愛らしい女の子に変わったりして面白い。
「……ミツキ? その話俺は聞いてないよ? あのクソジジ、いや、父上がミツキに服を?」
『あれ、知らんかったっけ? そか、アレイストが出張行っとったときに来はったもんな。ほら、アレイストも可愛いて誉めてくれたやん、ラベンダー色のロングニットのチュニックとか』
センスええよな〜と頬を染めるミツキに、ますます笑みが固まるアレイスト。
うんうん、悔しいんだよな。
父親とはいえ、ミツキのラブオーラを独り占めする敵が贈った服をうっかり誉めてしまった事実が。
あれはあたしも見たけれど、ミツキにとても似合ってた。
趣味を押しつける若造(アレイスト)とは違って、ミツキの好みに合わせつつも微妙に上級のラインを選ぶという熟練のワザ。さすが伯父上。
彼がここに来るときはいつも、ミツキに“おとうさま”と呼ばせるようにしてるのは、言わない方がいいだろう。
バレたとき面白いし。