アストリッドの独白(4)
一番最初に捕まった、アレイスト。
取り立てて見るところもない彼女が気になって、なぜ気になるのかわからなくて、腹立たしくて。そんな様子を外に見せること自体、驚きだった。
――気付いてる?
嘘の感情じゃなく、それが心から出てきた笑みだって。
まったく自身の気持ちに気付かない――或いは、気付かないふりをしているアレイストと、全然その気のないミツキにシビレを切らして、何度ド突きそうになったことか。
あたしがミツキに余計なことを吹き込んだのは、いい加減そんな膠着状態(主にアレイストの)が我慢できなくなったからだった。
何かのキッカケになればいい。
ミツキに、あたしたちの正体がバレたって、きっと、彼女は変わらないと思うから。
少しの不安と、少しの期待。
――そうして、あたしの思惑通り。
ミツキがアレイストの餌たちに嵌められて、研究棟に閉じ込められたことが、二人の状況を動かすことになったのは、計算には入れてなかったけどね。
「アストリッド。ミツキは城に連れて帰る」
血の気の失せたミツキを大事そうに抱えて、研究棟から出てきたアレイストが、駆け付けたあたしに開口一番そう言って。
あたしは呆れた視線を隠さず、奴に投げてやった。
「オイオイ……さっそく監禁かよ」
「人聞きの悪い。ちょっと、夢中になりすぎたからね。安全なところで休ませるだけだよ」
その浮かれた笑みは何だ。ある意味もっとも危険じゃないか、お前の傍は。
しかし、もうアレイストはミツキを手放さないだろう。
関係者各位にはあたしが手を打てってか。
「ハイハイ、寮には届け出しとくよ。一応、責任があるからね」
「頼む。――アストリッド、お前、知っていたな?」
頼むと言われたことに内心ビックリ仰天、反応が遅れてしまった。
だから、なんのこと? と空とぼける代わりに、ニヤリと唇を上げた。
「叔父やお前の思い通りになるのは腹が立つが……。ミツキだから赦す」
なにが、〜だから赦すなんだ。他のやつが聞いたら意味がわからないぞ。
ま、あたしはわかったけど。
――出逢ったのがミツキだったから。
この策略がなかったら、出逢わなかったかもしれないから。
――だから、赦す。
あくまでもお前は偉そうだな。
精血を奪われ過ぎて意識を失い、グッタリと身体を委ねているミツキをアレイストが愛しそうに見つめる。
時の流れの中でいつのまにか狂っていた歯車が、もとに戻り回り始める音を確かに聞いたと思った。