アストリッドの独白(2)
アレイストに彼の言葉を伝える必要はなかった。
あたしが留学生たちが利用する寮の長として会ったとき、すでにアレイストはミツキを特別視していたんだ。
彼女が“それ”とは知らずに。出逢った瞬間から、惹かれていた。
そのあと、個人的にミツキと仲良くなり、早々にあたしは彼女がイミューンだと確信していたんだけど、これもアレイストには教えてやらなかった。
だって、お膳立てした運命の出逢いなんてツマラナイし?
アレイストが初めて味わう気持ちを大事に見ていたかった。
最初から、アレイストの視線と意識はずっと彼女のもとにあった。
本人は何だか変な言い訳を自分にして、そうとは気付いていないフリをしてたけれど。
生まれとか立場とか、優れた見た目とか、全部すっ飛ばしてその人の本質を見つめるあの黒い瞳に捕まっていたんだと。
アレイストがいつ気付くか楽しみにしていたんだ。
『アンタは面白がっとるだけやろ!』と、ミツキなら言うかもしれない。
まあ、否定はしないよ。
だって、あのアレイストが、だよ?
灯りに蛾が引き寄せられるように女も男もヤツに引き寄せられ、一族の魅了の力がなくったって入れ食い状態だったアレイストが(いや男は食ってないけど)、平凡極まりない異国の娘に振り回されている様子と来たら……!
楽しまないとソンじゃない。
当のミツキは口説かれてることにまるで気付かずアレイストのあからさまなアプローチを『意味不明やキモイねん』で済ませるし。
もうそのころにはあたしだってミツキが“特別”だったから、あえて取り成してやることなんてしなかった。
だって、こっちだってジャンシールという肩書きなくあたし自身を見てくれる友人なんて初めてだったんだもん。
アレイストの味方ではあるけれど、それとこれとは別っていうか。
今までズボラして生きてきたツケをこのさい払いきって見せればいいんだ、という、いわば親心だよ。
百戦錬磨のアレイストが右往左往する有り様を、なまあたたかく見守らせて頂きました。
ずっと自分の気持ちを認めなかったアレイストだったけれど、ミツキがイミューンだとわかったとたん、こちらが驚くほどの傾倒ぶりを見せた。
ヤツが好きな相手にあんなに甘くなるタイプだったとは。
ミツキは一族の“呪い”を受けない。
彼女自身の魂を侵すことなく、共に、永い時を、生きていける―――。
まあミツキがそれを受け入れるかどうかは別として。
あたしから見ると、イイトコ行ってるんじゃないかなって思うんだけどね。
それは本人同士が気付かなきゃ意味がないしね?
ミツキ効果はアレイストに変化を促した。
人形のように造られた顔に浮かぶ表情が、計算ではなく本当になって、自身を厭う物言いや気配が減り、一本筋が通った眼差しをするようになった。
――ミツキが主人の想い人として城の皆に受け入れられた理由は、そのアレイストの変化にある。
使用人の名を口にするようになった。
片手間でなく、自分に課せられた務めを果たすようになった。
排他的なところがなくなった。
部下を自分の手足と認めるようになった。
――笑うようになった。