アストリッドの独白(1)

それは、
どこまでが偶然で、どこまでが必然だったんだろう。

だけどその時それぞれの選択が、確実にあたしたちを出逢わせ、彼と彼女を引き合わせたのだ。

――真月の女神(ディルナシア)

貴女はどこまで、この運命を見透しておられたのですか―――。


   ‡‡‡‡


 ――面白い娘がそっちに行くよ。

そう聞いたのは去年の春。
人当たりが柔らかで誰にでも好かれる人格者を装っている彼の、珍しく上機嫌な言葉に、あたしは内心へえ、と思った。他人に対して好き嫌いが激しい彼が、好感を持ってそう言った娘。
だから“その子”が来るのを実は会う前から楽しみにしていたのだ。

一族の推進派である彼とその仲間が推し進めている計画のひとつに、人間との混血がある。
そのために、ジャンシール家が出資者である学院で、交換留学制度なんてものが始められることになった。
研究所の長年の調査により、東洋の小さな島国に住む人々――日本人が、我々の魔力に対抗しうる因子を特に持つ確率が高い、という結果が出てから、何年もかけて進められていた計画。
何故そうなのかは、人種的なものなのか、文化的なものなのか、宗教的なものなのか、未だ結論は出ていないけれど。
今、“アレイスト”が学院に在籍しているタイミングでそれを始めたのは彼の工作だ。

――生に憂いている、王を――否、甥を救う相手を探すために。

王としての矜持が、古とは変わってしまった一族を許せず、

王として生まれた絶望が、彼自身の生を厭い、

矛盾する自我を抱えた“アレイスト”を救う相手を。


なんといっても、アレイストが居なければ“アレイスト”になっていたかもしれない彼が、期待する人物。
少なからず、話を聞いただけのあたしだって、期待するというものだ。
孤高の王などと聞こえはよくとも。
誰もアレイストの孤独を理解することは出来ない。
幼い頃から一緒にいるあたしやロルフでさえ、彼の本質に触れることはかなわなかったのだ。

そうして、本人の預かり知らぬところであたしたちの期待を一身に背負った“彼女”がやって来た夏。

――それは正に、必然としか言いようがない運命がアレイストの前に差し出された瞬間だった――。


*前目次次#
しおりを挟む
PC TOPmobile TOP
Copyright(c) 2007-2019 Mitsukisiki all rights reserved.

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -