親子


「閣下、そろそろ……」
「ああ。それではミツキ、そのうち落ち着いたら実家の方にも遊びに来なさい。アレイストは置いといていいから」

時間切れを言い渡されたお父様は息子に対して冷たいことを言い放ち、まるで娘にするような頬へのキスを私に落として(うきゃーーーー!!)腰をあげた。――と、そこへ。

「ミツキ、ごめん、遅くなって――」

今日の仕事は終わったのか、意気揚々と扉を開けて、アレイストが入ってくる。

 ノックくらいせえや。別に遅うなったとか、待ってなかったしええけども。

いつものように言い返しかけた私の言葉は、部屋の中にいた人物を見たアレイストのギョッとした顔で閉ざされた。

「父上……?! なにをなさっているんですか、こんなところで」

 むぅ。こんなとこで悪かったな。

表にいた護衛さんたちに何も知らされていなかったらしく、珍しくアレイストは仰天した顔を隠さずお父様に問いかける。

「なに、って――彼女にお詫びをね。不甲斐ない愚息が迷惑をかけたようだし」

向き直ったお父様の瞳は完全にからかって遊ぶ体勢だ。息子で。
それに気付かずアレイストは不服そうな表情を隠さず、私の方へ足を運ぶ。

「首都からわざわざ? それはそれはご苦労様です――リック、お前まで」

 睨まれたチョイ悪おじ様は肩をすくめた。

『ミツキ、変なことされなかった? 大丈夫?』

 変なことってどないな言い草や。お父様に向かって。あとなんでわざわざ日本語や。

『お花もろてん〜。えへへ、ええやろ〜』

満面の笑みで花籠を指した私に、アレイストのこめかみがひきつる。

『へえ、よかったね、ミツキ。じゃあそれは城の君の部屋に持っていこう』
『いや、そんなん帰るころには枯れとるやん。持ってかんでええし』

据わった目をするアレイストから花籠を庇うようにすると、ムッとされた。

 なんでやねん。

クッ、と押さえきれなかったらしい含み笑いに、二人して顔を上げる。

「……っ、話には聞いていたが……、そんな余裕がないことでは呆れられるぞ、アレイスト」

肩を震わせ笑いを堪えているお父様に、アレイストは冷ややかな一瞥を投げた。

「――余計な世話です。とっとと仕事に戻ったらどうですか、今頃秘書が大慌てなんじゃないですか」

 何をそんなツンツンしとるんや、この息子は。
 敵に向けるんと同じ顔しとるん、気ぃついとるんやろか。

つい、手を伸ばして頬っぺたを引っ張った。

「……ミツキ?」
「仏頂面。失礼です」

イヤな顔をしたアレイストに注意する。と、ますますイヤそうな顔になって。

「ふふ、構わないよミツキ。仏頂面でも私には貴重だ。――本当に、君を我が家に迎え入れるときが楽しみだよ」

お父様が優しげに嬉しそうに言われた言葉に、その内容を否定しなければいけないというのにポッと頬を染めてしまった。

 いや、だって!
 あんな瞳で微笑みかけられたらしゃあないやん!?

「……ミツキ……」

 恨めしげなアレイストの声が響く。

 しゃあないやん!


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