おじ様の御訪問
数日は安静に、とよってたかってベッドに押し込められ、そこから出ることを許されず、私はフテていた。
そらちょっとフラフラするけどさー、寝たきりでおったら余計体力低下するやん。
いつも元気な私の一週間の意識不明は皆々様に大打撃を与えたようだ。
病室の外には常に護衛が控え、メイドさんたちも入れ替わり立ち替わり私の様子を見に来ては、世話を焼こうとする。
四人キョーダイ長女の私は面倒を見てもらうことに慣れていない。
故に、とってもとっても居心地が悪いのですよ。
暇つぶししよ思ても、アレイストもロルフも後処理に奔走しとるみたいで、毎日顔は見せるけどあんまり長いこと居らへんし。
あたしが意識を取り戻すまで付きっきりやったツケが回ってきたんやて。
アストリッドもなんや用事で出払ったきりとかで、一度も顔見てへん。
親友、冷たいやんか〜。
しゃあないから課題やったり言葉のお勉強したり、ええ子にしてましたよ。
だから、神様は私にご褒美をくれたのだと思う。
「――ミツキさん? 初めまして」
ある日の午後。
メイドさんが用意してくれたスイーツで3時のおやつを楽しんでいた私の元へ、ステキなおじ様がいらしたのです――!
「我が家の愚息がいつもお世話になっています」
ポカンと口を開けて見上げる私に微笑みが落とされる。
目の前にいらっしゃるのは言わずと知れたアレイストのお父様。現ジャンシール家の御当主。
き・ゃ・あ・あ・あ・!!
テレビや新聞で拝見するより柔らかい雰囲気を漂わせた、壮年の紳士だった。
ゆるくウェーブの掛かったくすむ金色の髪、紺色の瞳。
アレイストとおんなしくらい背が高くて、心持ちガッシリしているカンジ。
顔立ちは「親子なんだよ」とそう言われたら、ああ、と思う程度にしか彼と共通するところはない。
――でも。
他者を圧倒的に惹き付ける魅力は同質のものだ。
てゆーかおじ様実物の方が何倍もステキ……!
背後に控えてらっしゃるチョイ悪系のおじ様もお素敵……!!
「は、初めまして、こちらこそ、お世話になってます、」
ぽうっとなってもじもじする私の様子をどう誤解したのか、気遣わしげに表情を曇らせたおじ様は、こちらの手を取って瞳を覗き込んでこられる。
美形のおじ様のドアップ――!!
鼻血ッ鼻血出るうぅぅ!
「一族ぐるみで君に迷惑をかけていて、すまないね。もう少しうちの息子が頼りになるかと思ったんだが……」
まるであの時血を流した怪我の痕を探すように、手のひらを眺められた。
「それどころか逆に守られるなんて、さすがに愛想が尽きたんじゃないかい?」
いや、あいにく尽かす愛想持ち合わせてませんからー。
なんてツッコミは心の中にしまっておいて、私はゆるりと首を振った。
「助けてもらう、おあいこです。迷惑も、どこが始まりか言い出せばキリがないです、から、いいんです」
この報復は自分できっちりしたるさかいな。
どこだかに居る化石ジジイ共に持つ、消えない腹立たしさを隠してニッコリ笑う。
お父様はフッ目元を和ませて、手に取った私の指先に口付けられた。