へんたい
……てか、なめ?
ルーシアは知っとる、城のメイドさんの一人で、ふわふわしたかいらしーお姉さんや。
なめ??
疑問の眼差しを向けた私にロルフがニッコリ微笑む。
「そうですね、ミツキ様が我が君に治して頂いたのと同じ方法で」
瞬間、笑顔を向けあうロルフとアレイストの間に火花が見えた。
何故に。
アレイストと同じ方法?
今度はアレイストに視線を向ける。
それを受けて怯んだ彼に、更にロルフが重ねた。
「ミツキ様。ルーシアは末端ですが一族だということはご存じでしたか?」
「うん? ハイ、最初に紹介してくれました」
一族である自分がメイドとして側にいるのが厭なら、今のうちに言って下さいとか、遠慮しいなこと言ってたかな。
「我が君に精血を捧げたあと、傷が残らないことには?」
へ……? それもうん、まあ、気づいてたっちゅうか、何やアトはうっすら付くけど、ガブリといかれた牙のあととかはないなあ、と思ってたけども。
話の展開がよくわからないままウンウン頷いて先を促すと。
「ロルフ!」
どことなく焦ったような制止の声をアレイストが上げた。
それを笑顔のままロルフは無視して言う。
「一族の者の唾液には治癒効果があるんです。吸血のあと塞がらない傷口から失血しないように、でしょうね、上手く出来てますよね、不思議ですよねぇ」
そうやなぁ。転んで怪我したときとか唾つけといたら治るわ〜とか言うてたけど、そういう迷信めいたこととは別で、マジで治るんか、スゴいな〜………あ?
なめ――舐め?
って、そういうことーーーっ!?
え、ロルフとルーシアさんてそないな仲なんっ? いやほらだってロルフが刺されたん脇腹やったしソンナトコな、舐め……って、ただの間柄やないやんな!? 全然そんな風に見えへんかったで、うっはー、ええなーロルフ、ルーシアさんもちょっと好みやねん、あたし。今度からかったろ〜……いやそうじゃない。
“ミツキ様が我が君に治して頂いたのと同じ方法で”
――同じ、方法で?
ジトリ、と私はロルフと睨み合っているアレイストに冷たい目を向けた。
「……アレイスト……」
ハッとこちらの視線に気づき、ヤツは慌てて首を振る。
「治療だよ、ミツキ! ヤマしいことは何もしてないよ?!」
何やヤマしいことって。
つうか、そういう反応する言うことは、やっぱり。
舐めたんか。
『ヘンタイ……』
エンガチョー、なんて思いながら私は布団の中に身を隠すようにしてアレイストの目から逃れた。
「って、その反応何だい!? 意識されて喜んでいいの、それとも逆?! だってそうしないとミツキの腕、何針も縫わなきゃいけなかったし、傷も残るし、神経だって、――ロルフ、貴様……!」
「言い出したのはそちらが先ですよ?」
にやにやにやにや。
ホンマ、ここの主従関係なんや間違っとらんか。
形勢逆転。
ロルフをからかうために持ち出されたネタが、今度はアレイストを窮地に陥らせているようだ。
まあ、あたしも本気で「イヤッ!」とか思てるわけやあらへんけどな。
緊急措置やっちゅうのはわかっとるし。
一文字に傷残るのいくら覚悟の上や言うてもやっぱり嫌やしな。
ただ、意識のないときにされたんゆうのがな〜。
布団のはしっこからじぃ、と見つめる私に気づいてアレイストが恐る恐る呼び掛けてくる。
「……ミツキ? 怒ってる?」
ううん。でもな。
『ヘンタイ』
ガクリ、アレイストはベッドの上に突っ伏した。