ブランクすぎる
リーリィは、クリストフェルの命約者という立場とその能力のこともあって、襲撃してきた奴らとは別に拘束されていた。
他にもう一人、アレイスト自ら捕らえた人も居たのだが、アレイストの負傷と私の危篤一歩手前(ええ、そうなん!?)というの混乱した状況のドサクサでそいつにもうひと暴れされて―― 一緒に逃げられてしまったらしい。
「ムルデンをこちらで押さえているから、どうせまた現れるだろうけど。とんだ失態だ」
「クリストフェルを糾弾するに、一番証人になりそうな者を二人とも逃がしてしまったわけですから。やっかいですね、申し訳ありません」
アレイストと二人してなんともいえない顔をしていると、ティーセット片手にロルフが、こちらも苦い顔で現れる。
いや、ロルフも大概な怪我しとったやん。
「動けるもの総出で捜させていますが、どこに潜伏したものか全く見つからないんです」
「アイツはノーマークだったからなあ……」
アイツって逃げたもう一人?
リーリィはその人と一緒なんやろうか。
今頃どないしとるんやろう。
私が彼女のことを気にするのは、リーリィが見せていた無邪気な少女の姿が、全部が全部、演技だったとは思えないから。
クリストフェルの隷族者、命約者という面を抜きにした、リーリィがそこには居たと思うんだ。
――好きな人がいる、と言ったリーリィ。
私を、害したいほど憎んでいる理由。
“どうしてお前だけ”と、あのとき叫んだ言葉の意味。
知りたいと思ってはいけないだろうか。
次にまみえたとき、話すことは出来るだろうか―――
考え込んで、うつむいた私の額をアレイストがつつく。
「今悩んでも仕方がない。あの女がしたことは腹立たしいが、クリストフェルの被害者とも言える。手は打つよ」
うん、と頷く。
とりあえず私はそれまでに頑張ってちゃんと会話できるようになっておこう。
『……そういやあたし学校どないなっとんの』
無断欠席! 単位がっ! それまでのしょんぼりを投げ捨てて叫んだとたん、呆れ顔のアレイストが私を見た。
「病欠にしてあるよ。単位のことは気にしなくていい」
そうゆうわけにはいかんっつうの!
言葉についていくのに精一杯で、一般教養の成績ギリギリやねんから! 寝てる場合やあらへんやん!
「……変なトコ真面目だよね、ミツキって。それに、もう休みに入るよ」
がーん!!!
え、そうか、クリストフェルのアホンダラに襲われたんが休みに入るちょい前でえ……一週間あたしがバタンキューしとったということは、あああ。
ショックでぺしゃんこになった私に、アレイストはニッコリ微笑む。
「だから大丈夫だってば、ミツキ。うちの学校の出資者、誰だと思ってるんだい?」
は……?