その後、癖になりました(ウザイ)
カラーン。
……あれ。
――カラン。
手に取り直しても転がってしまうレンゲと、細かく震える微妙に力の入らない自分の手指を見る。
優雅に指で持つのは止めて、子ども握りにしても結果は同じ。
自分ではギュッと握っているつもりなのに、レンゲは滑り落ちてしまう。
ニギニギ手のひらをむすんでひらいてしてみた結果、どうも力が入らないということに気付く。
「一週間寝たきりでしたからね。怪我もアレックスが塞ぎましたが、もちろん完全に治った訳ではありませんので、しばらく普段通りに動かすということは出来ないかと。――メイドを呼びましょうか」
転がるレンゲとオアズケされたご飯を目の前に眉間にシワを寄せていると、苦笑したロルフがそう言った。
一週間?
塞いだって、どおりで傷がないと思ったわ……ってどうやって?
いろいろ突っ込みたいことはあったけど、今優先されることは。
「アレイスト」
窓辺で大人げなくフテているアレイストを呼んでこちらを向かせた。
なに、と不機嫌に赤葡萄の瞳が問いかけるのに、私は告げる。
『食べさして』
……今なんかすごい音したで?
ガラス大丈夫かいな。
急によろけるなんてアレイストも貧血か? デコ擦っとるけどタンコブできとんのちゃうか。
「――ロル。下がれ」
窓ガラスにぶつけた額を押さえながら、フラヨロヨロ、と覚束無い足取りでこちらへやって来たアレイストが命じる。
唖然とその様子を見ていたロルフだったけど、アレイストがレンゲを手にして椅子に座り、私が給仕をうずうずしながら待っているのを見て、何とも言い難い笑みを浮かべた。
「では私は外で待機しております。――我が君、オイタはダメですよ」
「とっとと消えろ」
わずかに頬に朱を昇らせたアレイストが、ニヤニヤしているロルフを恫喝する。
別に居ってもエエと思うんやけど、なんやろか。
ミツキ様、危険を感じたらすぐ呼んで下さいね、と言い残してロルフが部屋を出ていく。
ご飯食べるだけやのになに危険なことあるんやろ、と首を傾げている私に、アレイストがレンゲにすくった粥を差し出してきた。
さっきまでの不機嫌はどこへやら、痒くなるような笑顔で。
……打ち所悪かったんやろか。
「ミツキ?」
私に正気を疑われているなんて思いもしてない笑みに、曖昧に返事をして私はパクリと粥を口にした。
米の形が無くなるくらいに煮込まれた粥は薄味で、すんなり胃に入ってゆく。
ときどき薬味を混ぜてもらいながら、身体が求めるまま栄養を吸収する。
一週間か〜、そらお腹すくわな。あっちでは数時間くらいやと思ってたけど。
……あっちってどっち? ん?
自分の思考に首を傾げていると、アレイストがもういいの、と、どことなく残念そうに訊いてくる。
慌ててまだ食べる、と訴えた。
しかしキショイな、ホンマなんでそんな嬉しそうやねん。
何故かアレイストは終始ご機嫌だったけど、納豆だけは勘弁してくれと泣きの入る勢いで言われたため、パックのまま冷蔵庫に入れてもらった。
失礼なやっちゃ。