空腹はいけません

『したり顔でセッキョーすんなや! 無茶とか考えなしとかアンタに言われとうないわ、このマヌケキューケツキ!』
『君は……! 意識を取り戻すまでどれだけ俺が心配したか、全くわかってないな!? 輸血が間に合わなければどうなったと思っているんだ!』
『そのままそっくり返すで、アンタが銀にやられて皆がどんなけ死にそうな顔になってたか、わからんわけあらへんやろ! 余計な手間かけさせよってっ。大体なあ、アンタがあたしを庇わんかったらあたしの怪我だけで済んどった話やろ! 庇われて死にかけとんのをほっとくほど薄情もんやないわ!』

売り言葉に買い言葉というやつだ。
二回目に目が覚めて、相変わらず傍にいたアレイストに『お腹すいた』と訴えたら、イキナリ説教が始まった。

 曰く、
 何故放っておかなかった、
 腕を切るだなんて無茶を、

 ようするに、銀にやられて死にかけていたアレイストを助けるためにあたしも死にかけたのが気に入らんてことやんな。
 それが命の恩人さまに対する態度かい。
 いや、あたしも助けられとる訳やから、おあいこなんやけど。
 せやけど自分棚にあげてムカつくやん! カチンと来るやん!

そして思わず言い返してしまったのだ。
おそらく腹が減りすぎてイラついてたんだと思う。

アホな言い合いしとるなぁ、と頭の隅で思ったりもしたんだけど、一度開いた口は止まらない。
ああ言えばこう言う、といった見本を私とアレイストは繰り広げていた。

「起きるなり何をやってるんですかあなた方は。アレックス、病み上がりの女性を興奮させない。ミツキ様も、あまりアレックスを苛めないで下さい」

 苛めるうぅ〜〜?

ワゴンを押してきたロルフが呆れ顔で私たちそれぞれに注意してくる。

私がアレイストを苛めるといった図式が納得できなくて、異議を申し立てようと口を開け――ワゴンから取り出される物に釘付けになった。

鍋にたっぷりの中華がゆ。
薬味も充実、嬉しいことにミツキ必須アイテムである梅干・納豆も添えられていた。

不機嫌から一転、瞳を輝かせる私にロルフが笑顔になって。

「スタッフに言って、胃に負担のないものを作って頂きました。お召し上がりになりますか」

 なるー!!

ベッドに上体を起こした私が楽な姿勢を取れるように背中にクッションを埋めて、テーブルをセットしてくれるロルフに感謝の眼差しを向ける。

執事の鏡というのかしら。

 やっぱ男は気ぃ利かんとな。
 それに比べてアレイストの大人げなさといったらどうだ。

 なにふくれてソッポ向いとんねん。まあエエわ、それよりもごはんごはんっ。

器によそわれたお粥に集中することにした。

いっただっきまぁ〜す! と掛け声よろしくレンゲを取って、いざ。


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