アルジェン
『 え。っていうか、ぅええっ?! 』
自分で呼び掛けといて、うろたえる私を可笑しそうに“アルジェン”が眺める。
『 あ、アルジェイン? アルジェン? なんで?? 』
「 どっちでもいいよ、どちらでもあってどちらでもないからね、今のオレは―― 」
―
女神の短剣。
―
銀の狩人。
どちらでもあってどちらでもない、とそう言う彼の人は私に微笑む。
研ぎ澄まされた刃の雰囲気を漂わせて。
滔々と告げる。
「 しばしの逢瀬だ、今世真月の花嫁。今のうちに、オレに答えられることは訊いておくがいい 」
これは、怪我をして気を失った私が見ている夢。
しかし、幻ではなく現実に続く夢。
いつかの世に、生きていたその人と会って話しているなんて、以前の私ならすっぱり夢だと完結して、目が覚めたら忘れ去る出来事だっただろう。
だけど、アレイストたちが存在しているように。
伝説の人物であるアルジェンと、剣の化身であるアルジェイン、それが重なりあったこの人が、今ここに確かに存在していることを私は理解していた。
理屈でなく、本能で。
この身の内を流れる血潮が、そう、告げていた。
――き、訊きたいこと?
訊きたいこと訊きたいこと、混乱する頭で私は考える間もなく口にしていた。
『 クソッタレジジイ共の弱点てわからん? 』
「 は? 」
鼻息も荒く私が言った内容に“アルジェン”の口がポカンと開く。
『 ようよう考えると何や今回の揉め事の原因、本家にいるとか言う化石ジジイ共ちゃうんかな思て! いずれは直接対決せなあかんやろうし、そんときのために作戦練っときたいねん 』
「 ……イミューンのこととか命約者のこととか、一族のこととかは訊かなくていいワケ……? 」
拳を握って、見知らぬジジイ共にファイティングポーズを取る私に、唖然とした顔のまま“アルジェン”が言う。
『 あたしがイミューンなんは変えようのないことやし。命約者とか一族のこととかはアレイストがあとで話す言うてたから、今はええわ。とにかく先のことや。ムカつくジジイをギャフンと言わせたらな! 』
クリストフェルやリーリィのこと、他にも気になることはもちろんある。
だけどそれはアレイストが解決しなければならないことだと思うから、私は彼でもどうしようもないことをフォローしようと思うのだ。
とりあえずは、わけのわからん嫌がらせをしよるジジイ共や、ジジイ共。
くっ、と押し殺した声に気付いて私はソチラを見やる。
“アルジェン”が俯いて肩を震わせていた。