ミツキとアルジェン
ええとー、と浮かび上がる意識以前のことを思い出そうと眉間にシワを寄せる。
何しとったんやっけ。
んん? 何でこないなとこにあたしいるんやっけ?
いつもウザいくらいにあたしにへばりついとるアレイストとかアストリッドはどこ行ったんやろ……、そこまで考えて、次の瞬間真っ赤になった光景が脳裏に浮かんで―――、
『 って、あああああっ!!? 』
アレイスト。
アルジェイン。
リーリィ。
銀が。
津波のように押し寄せる記憶に私は頭を抱えた。
そうや、アレイストの銀傷治すために思いきりよくズッパリザックリやってもうたんやん!
今、見下ろす自分の腕には傷なんてちっとも見当たらないけど、これが夢だとしたらそれも納得いく。
てゆうか、夢っていうか、これ、三途の川渡る寸前なんちゃうん?
川もお花畑も向こう岸で手ぇ振っとる身内も居らんけど! だいたいうちの親戚みんなピンピンしとるし!
いやそうじゃない、
『 ヤバイー! 死亡フラグ?! 臨死体験っとる、あたし!? 』
白い世界で愕然と叫んだ。
「 いやダイジョーブ死んでない死んでない。ここは無意識下の意識内だよ 」
ムイシキカのイシキナイ。
何の謎かけやねん、それは。
傍観しているかと思ったら冷静に突っ込んできた“その人”に私は向き直った。
銀の帷の向こうの瞳は、興味深げに、あるいは楽しげに煌めいている。
そうすると、作り物めいた美貌が生気を纏い、存在感を増す。
なんやろ、初対面のはずやのに、よお知っとるみたいな。
懐かしい親わしさを感じる。
そんな風に私が分析しているのを余所に、“その人”は肩をすくめてさらに続けた。
「 死にかけたのは間違いないかもね。だいぶ血を流したみたいだし? 」
アッサリ言わんといてー。
自分の後先考えんアホさ加減に落ち込むやん。
「 大丈夫。――“彼”も助かるよ 」
密やかに告げられた言葉にハッと顔を上げた。
謎めいた銀の瞳と目が合う。
私は意識しないまま、“その人”の名を口にした。
――アルジェイン――アルジェン、
銀傷に苦しむアレイストに、あたしの――イミューンの血を与えろと本能に囁いた、その名を。