真価
「み、……ッ…!」
ぎょっと目を見張ったアホウを無視して、私は流れ零れる自身の命の水をアレイストの銀に侵食された部分にぶちまけた。
上腕から手の先まで深く切り開いた傷口から、鼓動に合わせて溢れる血潮、そのすべてが降りかかるように。
「っは、ぅ、あああっ!」
体を跳ねさせるアレイストにのし掛かる。
突然の暴挙に唖然としていた部下の人も、意を決した様子で、私一人では撥ね飛ばされそうだったアレイストの身体を押さえ込んでくれる。
血にまみれた手を、一番最初に受けた手のひらの傷口に重ね合わせた。ぎゅっと握り込む。
銀に焼かれ形を留めることが出来なくなったアレイストの細胞が、再生するための力を求めて注がれた命の滴を吸収する。
ぐずぐずと崩れようとしていた肉が、私の血を得て再び形を取り戻す。
そうして破壊と再生を繰り返す彼の器が、どれくらい持つか。
私はアルジェインの柄を口でくわえて、空いた片手のひらに刃を滑らせた。
ああもう痛い。
スプラッタ嫌いやのに、なんで自分からスプラッタにならなあかんねん。
自傷の趣味ないゆうねん。
アルジェインをジーンズのポケットにねじ差し、手のひらから流れる血液をアレイストの口に突っ込む。
『ッンのアホンダラ、あたしがここまでしとるんや! しっかりせえッ』
貧血にぐらんぐらんする頭を根性で持ち上げて、怒鳴った。
このアホアホアホ、考えなし、
あんたがこれで死んでもうたら誰があたしを他の奴等から守るんやっちゅうねん、
言うとくけど自分の血をやるなんちゅうキショイこと、赦したるのはあんたぐらいやで、
なにキョトンとした顔してんねん!
ぐ、と重ねた手を握り返される。強く。
すぅ、と息を吸ったアレイストは、口を塞いだ私の手に――牙を立てた。
―――それでええねん、このアホマヌケアホンダラ。
アレイストの瞳に、生きる力が戻るのを確かめてから、私は心置きなく意識を手放した。