囁く声
苦痛に呻くアレイストの、銀で傷ついた手のひらから、もう既に肩口まで、煮えたぎった油をかけたような爛れた傷が広がっていた。
見る間もそれがボコボコと音を立てるように進行していく。
彼の周りの人々も、手に負えないことを察して、茫然と立ち尽くしていた。
嘘や。そんなん――
――――赦さへん……!
「ミッキ?!」
突然立ち上がり駆け出した私をアストリッドの驚いた声が呼ぶ。
子細、構っている余裕はなかった。
本能が私に命じる。
声が、聞こえる。
それが身の内から生じるものなのか、私のものである銀から聞こえるものなのか、意識もしなかった。
床に転がっていた、アレイストを傷付けた凶器であるアルジェインを拾い上げ、私は着ていたニットを脱ぎ捨てキャミソール一枚になる。
いきなりの行動にポカンとしている皆を掻き分け、アレイストの元に。
右腕の傷口を掻きむしるようにしていたアレイストの赤い目が私を捉えた。
呻く喉の奥から、逃げろ、近寄るな、と絞り出す声が聞こえた。
このアホウ。
あんたがこないなっとって、あたしが何で逃げられる思うねん。
苦しげに息をつく、唇の向こうに伸びた牙が見え隠れする。私の前ではいつも抑えている、人外の気配を色濃く漂わせて。
きっと、銀傷に苦しみながら、私に襲いかからないように、必死で耐えている。
――このアホウ。
そうやな、出逢ったばっかりのころやったら、一も二もなくトンズラかましとったわ。
せやけど、もう、
そないなこと、出来るわけあらへんちゅうこと、いい加減理解せい―――!
倒れたアレイストの胸を片足で踏みつけ、動けないようにしてから、片手に持った彼の血に汚れたアルジェインを私は振り上げ構え直す。
まさか、という皆の悲鳴。
制止の声。
私を見上げるアレイストの赤い瞳が瞠目したあと、安堵の色を見せる。
楽になれるとでも思ったのか。
それらを全部振り切って、私はその銀色の刃を――自らの腕に突き立てた。
左手一本。持ってったらええわ――!
「ミツキさま―――!!?」
熱い。
痛い。
そんなの後で感じたらいいものを、しっかり私の感覚はそれをとらえていて、挫けそうになる。
根性入れえ、あたし!
失うか失わへんか、ここが分かれ道なんや!