ピーピング・ミツキ
「アレックス……」
うっとりと呟きながら首に回された彼女の細い腕を避け、アレイストは、それで、と言う。
「何の用。僕は人を探していると言ったはずだ」
忌々しげな声音は関係のない私でも血が凍るよう。
少なくとも今の今まで熱っぽい口づけを交わしていた相手に出すものではない。
王子さま、性格違わんか?
それとも恋人にはSなんか。
しかしそうでもなさそうだ。
冷たい瞳と声に彼女はビクリと怯え、困惑した視線をヤツに向けた。
「……アレック……アレイスト? ねえ、どうしたの……?」
取り繕うように微笑み、伸ばされた彼女の手は拒絶されて。あくまでも淡々と、アレイストは言った。
「悪いが今、君と遊んでいる気分じゃない。失礼するよ」
そのまま踵を返し、部屋を出て行こうとした彼に、彼女が叫ぶ。
「おかしいわよアレックス! あんな小娘を気にするなんて、どうしちゃったのよ!?」
ええと、気にしてる小娘ってあたしのことかいな。
早口でやり取りされる内容を必死にヒアリングする。
修羅場って何て言うんだっけ。
「僕が誰を気にしようが君に関係が?」
アレイストの突き放すような口ぶりに、サッと彼女の顔色が変わる。
「……私は……っ、貴方が立場に相応しくない相手といるのが我慢出来なくて、」
「だから何故、相応しい相応しくないを君が決める?」
うんざりしたようなアレイストの声。
どないしよ、あたしこっちのアレイストの方が好感持てるわぁ。
「そんな……、私は特別でしょう? 家柄だって貴方に釣り合うし、隣に並んでも遜色ないわ、父様たちもそう言って……」
アレイストに――いや、男にこんな風に邪険にされたことはないんだろう。彼女は弱々しく、泣きそうになりながら彼にすがろうと手を伸ばす。
「――調子に乗るな」
ひややかな、感情のない声が落とされた。