赦せぬこと
剣が打ち合わされた部分を支点にアレイストがリーリィを振り払う。
どんな力が掛けられたのか、リーリィは吹っ飛び、しかし空中で一回転して体勢を整えたかと思うと壁を蹴り、再び向かってきて。
うわあ、とのんきな感嘆をアレイストが漏らす。
「ものすごいな、あの女」
感心しとる場合かァーーッ!!
私を小脇に抱えたまま戦闘に入ろうとするアレイストに、慌てて離せと訴えた。
『リーリィの狙いはあたしなんやから! アレイストは引っ込んどき!!』
はあ? と不機嫌そうな応えが返ってきた。
『まったくミツキは手に負えないね。一体、何だって、俺が、君を放り出して引っ込んでいられるなんて思うんだか』
リーリィの攻撃を片手であしらいつつ、私の腰を抱えたまま、更に日本語で話しかけるという余裕っぷり。
なんちゅうイヤミな男なんや……!
めちゃくちゃ苦戦しとったアスタとロルフが可哀想やんけ。
――それだけ実力差が、――アレイストの能力が、桁違いだということなんだろうけど。
でも、それでも。
そうだった、と私は肝心なことを伝えるために、アレイストを見上げる。
『アレイスト、あんな、リーリィな、えーと、ディスディーリィ? それやねんて! さっきからゾンビやねんっ!』
ピタリとアレイストの動きが止まった。
あわわわわ、言うタイミング悪かった?
何やらショックを受けた風なアレイストに、私は慌てる。
リーリィそこに来とるて――!!
次の瞬間、熱波のような圧力に、私たちは曝されていた。
吹き飛ばされる人々。
私を除いて一番近くでソレを受けたリーリィが、まるで枯れ葉が風に舞い上がるように壁際まで飛ばされ、叩きつけられるのが、見えた。
またキレよった――!?
私すら目をしっかり開けるのも辛い不可視の力の前に、敵も味方も苦痛の呻きを漏らす。
『アレイスト……っ、しっかりしぃ!』
「――確り、しているよ、ミツキ」
いざとなったら拳固でぶん殴って正気取り戻したる、なんて拳を握っていた私を、思ってもみなかった静かな声が迎えた。
瞬きして見つめたアレイストは、凄みすら感じる冷静な面持ちで、遠くを見ていた。