終幕


「――誰を命約者にしようが個人の自由だが――これは、クリストフェル――私に対する侮辱だな――?」

聞いたこともないような、威厳のある冷たい声。

壁に叩きつけられ、華奢な身体はボロボロになっているはずなのに、まだアルジェインを握りしめてこちらへ向かおうとするリーリィを、赤い赤い瞳が見つめる。
カクカクと、壊れた人形のように動く彼女に私は、もうやめぇ、と聞こえない言葉を発した。アレイストが呟く。

――憐れな。せめて。

……まるでアレイストの口を借りて、誰かが話しているようだった。

急に不安が襲って、私は目の前にあるアレイストの胸元を掴んで、彼の瞳を覗き込む。
ふっ、と瞳の色が宵闇色に戻って。
見上げる私の黒い瞳を映す。
瞬きして、アレイストの表情が柔らかくなる。

落ちてくる唇に何故か私は逆らわなかった。
アレイストは柔らかく啄むように口付けを落としたあと、私を腕から降ろして、微笑んだ。

「――やはりミツキは俺の女神だな。ここで待っていて。――始末を着けてくる。王として」

決意を込めた声音。
止めたかったけれど止められなかった。

 ――始末を――王として――

その言葉に秘められた意志は、私が容易く止めていいものじゃない。

ただ、大丈夫? と問いかける。
微かに笑って、私の頭を軽く撫で、アレイストは地下の扉へ向かった。

――それから起こったことは、今、思い返しても、コマ送りのスローモーションで。

目の前で見たことなのに、テレビ画面のように、一枚向こうのことのようで。




「――ッどうして――お前だけ――!!」


悲痛な叫び、誰かの悲鳴、そして。


上手く動けないうちに、と拘束しようとしていたアレイストの部下を薙ぎ倒し、リーリィが私に向かって投げつけた――アルジェイン。


無防備だった私の背に、突き刺さるはずだったそれを。


アレイストが、手のひらで受け止める。



「―――――ッ、」


銀を。









アレイストの名を呼ぶ自分の悲鳴を、どこか遠くから響くもののように、


聞いた。


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