不死(しなず)


「ロルフ、ごめんなさいですっ」

怪我してまで守ってくれて、気遣ってくれたことを無にする。
転がるように廊下へ続く扉に手を掛けた。二人が私を止めようと名前を呼ぶのを耳に、ドアノブに手をかける。

はっ、と気配を感じて首を引っ込めた。寸での差でガツンと扉に当たって落ちる小さなナイフ。
 あぶな〜。
 自分の野性のカンがありがたい。
 思った通りにアストリッドを振り切ってこちらへ向かおうとしたリーリィだったけれど、その隙を逃さんとばかりに振るわれた鞭に首をガッシリ捕まえられていた。
 躊躇いもせずアストリッドは手首を返し、鞭を引いてリーリィの喉を絞める。
容赦ない、そのチカラに、イヤな音がして、リーリィの首が折れる―――、

  ゴキン。

 その音に、私は身をすくませ、糸の切れた人形みたいに崩おれたリーリィを呆然と見つめた。
アストリッドはさすがに眉をしかめ、それでも気を緩めず倒れたリーリィの身体を引き寄せようと鞭を引っ張る。
 ―――が。
 イキナリ均衡を失って長身がよろめく。その手の中の武器の先が、断ち斬られていた。
 パキパキと小枝を踏むような音が微かにして。

倒れたリーリィの腕が、持ち上がり、自らの首を押さえて―――ゴキリ。

折れた首をはめ直した。

「なっ……!」

目を見開いて息を飲むアストリッド。治癒が早すぎる、と無意識にだろう、ロルフが呟いた。

――後から聞いたところによると、いくら死なない身体と言っても治癒には時間差があって。
リーリィのように、瞬時に治るっていうのは、それまでによほど同じ様な負傷を負っていないと起こらない現象らしい。
ようするに、リーリィは、身体が覚えるほどそういった“死”を今まで経験してきたのだろうと、いうことで。

それを聞いたとき、頭の血管切れそうなくらい、あの男に怒りを覚えた。

とにもかくにもそんときの私は、
(しまったー! リーリィが死んどる間にアルジェイン取り返しとくんやったー!)
なんて、人としてどうなんや、なんてことを思っていただけで。

血に塗れた華奢な身体がゆらりと立ち上がる。戦闘で薄汚れた顔、その中で凍りついた憎しみを秘めた瞳が私を捉える。

倒しても倒しても――、
傷ついても傷ついても―――何度でも蘇り、立ち上がる。死なない――死ねない、身体。

『っそんなん! 反則やんか――!!』

 泣きたいような、どうしようもない胸の痛みに叫んで、私は扉を開けて床を蹴ったリーリィから逃れた。


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