流れる赤と赤



ハラハラしながらロルフとリーリィの攻防を見ていると、「やっぱり押されてるな」と女王様アスタが呟いた。
背に庇われていた私はその言葉に二人を見つめ返す。

確かに、眉をひそめ苦しげに息を吐いているロルフに比べて、リーリィは呼吸さえ荒いもののまだ余裕がある。
私はその可愛らしい今は凍ったように表情が動かない彼女の顔を見て――おかしなことに気付いた。
さっき。ロルフの剣がかすめた白い頬。

 美少女にワイルドな傷跡がー!! 
と状況も弁えず慌てたその一筋の赤い線が。

 ―――ない? なんで?

『キズが――消えとる』

私がポツリと漏らした言葉にアストリッドが意味を確かめるように振り返った。
視線の先を認め、目を見開く。

「ロル! そいつ――命約を交わしてる!!」

アストリッドのその叫びと同時に。
ロルフの剣がリーリィの胸に吸い込まれる。

まるで、自分から身を差し出したかのように、見えた。

華奢な背を貫いて、血に濡れた鋭い刃が姿を現し――、

「――――ッ!!」

私は、両手で口を押さえて悲鳴を飲み込んだ。
グラリと傾いだ、自分より半分ほどしかない少女の身体を反射的に支えようとしたらしいロルフだったけれど、次の瞬間弾かれたようにリーリィを突き飛ばし、退く。

数歩の距離をとったところで膝を崩す。脇の辺りを押さえた彼の手のひらから流れる、赤色。

「ロルフ!」

駆け寄ろうとした私を厳しい顔をしたアストリッドが引き留める。ギリ、と歯を噛む音。

「最ッ悪だなあのヤロウ」

 誰?
 ―――クリストフェル?

突き飛ばされた拍子に、まるで人形のように四肢を投げ出し倒れ伏していたリーリィの腕が、ユラリと上がった。
緩慢な動きで、胸から生えたように突き刺さっている剣の柄を掴み、――ズルリと引き抜く。

溢れた血流は一時(いっとき)、それ以上は床も彼女の衣服も汚すことはなく。

ガランと投げ出される、血潮を纏った剣。

横たわったまま、リーリィは手のひらで傷口の辺りを撫で――予備動作もなく素早く身体を返した。
私が、アストリッドの腕が振られたのに気付いたのは、ビシリと鞭の先が一瞬前までリーリィがいた場所を叩いてから。獲物に逃げられた女王様が舌打ちする。

 え、なに、何―――!?


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