消える赤
リーリィは負った傷を気にする様子もなくロルフの血に汚れたアルジェインを構えた。
と思ったら姿が消え――
「クソッタレ!」
『のわっ』
次の瞬間、首根っこをひっ捕まれた私はベッドに投げられていた。
ゴロリと転がって慌てて身を起こしたときにはもう、アストリッドとリーリィはぶつかってて。
繰り出される鞭をアルジェインで弾き返す彼女に、変わった様子は全くない。
胸を刺されたのに。
かすめたとか、チクリとか可愛らしいもんやのうてグッサリ串刺しになっとったのに。
怪我なんてないみたいに動いとる。
――頬の消えた傷。
――まるで傷つくことを恐れぬかのような無茶な戦い方。
リーリィは人間のはずや、やのに、なんで。
「……ミツキ様、今のうちに部屋を……」
負傷した部分を手で押さえたロルフに声を掛けられてハッとした。
「ロルフ、怪我! 動くダメです」
「俺は、大丈夫です。丈夫にできてますから……、それより、アストリッドが引き付けているうちに、アレイストの部屋へ」
あそこなら扉を塞げば誰も入れません、と冷静に指摘するロルフやったけど、ちぃともダイジョブには見えへんからー!
「早く」
武器を持つことももう出来なさそうなロルフは、それでもリーリィから目を離さない。
いつでも対応できるように、身構えている。
脂汗流しといてなに言うてんねん!
『痛み止め切れたんちゃうんか、あああ、えーと、メディシン? ばはりん……は違うかー』
ロルフはドーピングして闘っとったはずや。
肋骨、折れとぉはずやもん。
「俺の心配はいいですから。貴女が第一に考えるべきは自身の無事です」
そーゆーわけにいくかっちゅうねん!!
どいつもこいつも無茶しすぎや。
何故か、ここにはいないアレイストがやたら心配になった。
あのアホも無茶やっとるんちゃうやろな。
アルジェインを持つリーリィに、アストリッドはなかなか手が打てないでいる様だった。