その殺意の意味は
あの小さく華奢な身体のどこにそんな力と技が隠されていたのか、リーリィは襲い掛かる攻撃を全て防ぎ、また自身も彼に向かい刃を振るう。
怪我してるくせにそんな様子は露ほども感じさせず鋭い剣筋を見せるロルフも凄いけど、自分の倍ある青年にひけを取らないリーリィの腕も凄かった。
てゆうかその動きアンタら人間ちゃうやろ。
アストリッドが私の傍に来て、部屋の隅へ隠すように前に立つ。
本来ならアストリッドが相手をするところだったんだろう、だけどアルジェインがリーリィの手にあるかぎり迂闊に手を出せないようだ。
苛立たしげに介入の隙を窺っている。
凄まじいまでの速さと強さで打ち合わされる剣撃に、荒事に慣れていない私の心臓が痛いくらいに震えて鳴っていた。
リーリィはロルフを相手にしながらも、スキあらば私を害しようとキツいくらいの攻撃的な意識を向けてくる。
――何でなん?
――何でそこまで憎しみを向けられなあかんの。
好かれる理由もないけれど、殺意にまで発展した憎悪を向けられる理由も私にはないはずだ。
主であるクリストフェルが私のせいで捕まったから?
ううん、その前から、私を罠に嵌めた時に見せた表情からも、他に何か理由があることを教えてくる。
私の預かり知らぬ理由を。
ガギン、と鈍く高らかに刃が打ち鳴らされて力負けしたのかリーリィが体勢を崩す。
バックステップで身をかわし、勢いをつけて飛び、壁を蹴って回し蹴りを放つ――ああッ! 怪我しとる方の腕、蹴りやがった!
さすがに堪えたのか、一瞬動きが止まったロルフの隙を突いてリーリィの腕が振られる。こちらに向かって。
ハッとしたときには鋭く光るものが迫っていて――バサリと黒い布が目の前を覆った。
アストリッドがマントを翻し投げ付けられたナイフを叩き落としたのだと、遅れて気付いた。
舌打ち。
「怪我をしているロルには荷が重いな。銀さえなきゃあたしが相手してやんのに……」
と、ダン! と音がして廊下側の扉が揺れる。
ロルフとリーリィに気を取られて気が付かなかったけど、外でも何かが起こっているようで、争う物音がしていた。
ああああ。
みんな、大丈夫なんやろか…ッ。
打ち合ってる二人はさすがに無傷とは行かず、アチコチが切れて薄く血を流している。
私に手が出せないことに焦れたのか、人形のように無表情だったリーリィの面にも腹立たしげな色が浮かんで。
その様子を見ていたアスタが呟いた。
「――変だな。何故ここまでミッキに拘る? 主の意思に従うにしても、傷付けては意味がないだろ」
その言葉に私は心の中だけで答えた。
傷付けるどころか消そうとしてるんですよ、何でか知らんけどめっちゃ憎まれとるんですよ。
――それにしても。
やっぱり、リーリィは“違う”と感じた。
――支配なんて――されとらへんのやないか――?