襲撃
襲撃ってことは争うことだ。
争うってことは傷つくひとがいるってことだ。
敵も味方も。
ロルフが怪我をしたように、この城の知っている誰かが血を流す――。
戦うのをやめろなんて言えないし言っちゃいけない。
あっちは手加減なく特攻で来てるのに、傷つくのも傷つけるのも嫌だからこっちは戦うな、なんて綺麗事だ。
少なくとも守られるだけの私が言うことじゃない。
だけど。
誰かを殺す、なんて、私にとっては信じられない異常なこと。
偽善でもなんととられてもいい、ただ、アレイストや他の親しい誰かが、そういうことを当然のように行うのが嫌だった。
どうにもならないの。
どうにかならないの。
今、ここを襲っているのがクリストフェルを救出に来たものたちだと言うなら、彼がやめろと言ったら止まるんだろうか。
――もちろんヤツがそんなことを言うわけもないし、逆に煽る可能性もある。
けれど……、
「ミッキ! 窓から離れて!」
突然のアストリッドの叫びに思考が止まる。
緊迫したその声に従う間もなく、続けて甲高い悲鳴のような窓ガラスの砕ける音が耳朶を叩いた。
誰かが外から部屋の窓を割って転がり込んで来たのだと――“それ”が身を包んだ布をガラスの欠片ごと払い、立ち上がってから理解する。
その人物がリーリィだと気付いたときにはもう、彼女は刃を手に私に向かって来ていた。
まばたきの間に。
憎しみの炎を宿らせたアイスブルーの瞳と、
彼女が手にした抜き身のアルジェイン、
その白い煌めきが私に襲い来るのを感じて。
逃げる、とか、避ける、とか、悲鳴をあげるとか、そんな余裕もなく。
――あ、あたし殺られた。
思考が追い付いたときには既に刃は降り下ろされ――私はロルフの背に庇われていた。
遅れて届く金音。
刃と刃が打ち合う、耳に痛い響きと、ぶつけられた殺意に茫然としていた私をアストリッドが呼ぶ。
だけど私は激しく打ち合う二人から目が離せなかった。
ロルフの持った剣が私に放たれた死を払う。
剣風の余波に寝台の帷が無惨に切り払われ、ようやく馴染んだ乙女調度を傷付けていく。
怪我をかばう様子も見せず、ロルフはリーリィと激しく刃を打ち交わしていた。