ふぁんたじー
ベッドの上に小さくなって座り込み、凛々しいを通り越してヤバい鋭さを漂わせている親友を見上げる。
アストリッドは扉の方を向きながらどこか遠くを窺う瞳をして、何事かつぶやいていた。
「……にぃ、さん、……ろく……、よくもこれだけの隷族者を……あの面汚しがッ」
手の平の中でその皮の武器がギシリと軋む音を立てるほど、怒りを押さえきれないでいる。
辺りの気配を目にせずとも感じ取れるらしいアストリッドたちには、今現在の城の状態が手に取るようにわかるのだろうけど、普通のひとの私には無理。
緊迫したアスタの様子に、どないなっとんねんとイライラ、そういや何となく外が落ち着かない空気やけどそれが原因かイライラ、
あーーー、やっぱりあたしじっとしとるの向いとらへんわ!
もどかしくてジタバタ暴れたいような気分をもて余していると、コン、とノックの音のちに書斎のドアからロルフが入ってくる。
アストリッドはわかってたんだろう、チラリとロルフを見て頷き、再び意識を外へ向けた。
「ロルフ、怪我、ダイジョブ?」
「痛み止めが効いていますから、しばらくは平気ですよ」
いやそれ平気ちゃうやろ。
私のツッコミは見事にスルーされ、ロルフもさりげに戦闘体制に入った。
これまた黒いロングなミリタリー風のコートに身を包み、腰には飾り気のない、だけど使い込まれた感のある剣を下げて。
気負いもなく、当然のように争い事に備える女王様な親友と未来の執事、ちんまりベッドに座るわたくし。
……あ〜、なあ、なんかさ、今さらやけどさ、言ってもええかな。
あたし、壮大なファンタジー映画に現在絶賛出演中なんかな。
普通に剣が出てくるってどないなん?
あたしの目の前には鞭を装備した女王様がおるし。
きっと下ではセクハラ王子がマントばさぁでキラビヤかな剣持って敵を迎え撃っとるんやろ。
洒落にならんか。
銃刀法遵守が当然の世界に生きてた、平和ボケした一般日本人のあたしはそろそろついて行けへんのですが。
ああもう今までのことリセットしたい、リセット。
……いやでもそないするとアレイストやアストリッド、ロルフと仲良うなったんも全部リセットやしそれはちょっと嫌か。
緊張感に耐えられず現実逃避を始めた私をヨソに、部屋の鍵が閉められる。アレイストたちが立てた予想では、取りあえず今回の襲撃はクリストフェルの救出が目的だろうから、私はどさくさの誘拐に注意しとればいいということだった。
てなわけで自室にアストリッドとロルフを護衛に立てこもり……籠城中なのです。