矛盾の生き物
近いところにいてもしょせん部外者な私だから、言ってしまえる理屈かもしれないけど。
「……何でも長く放っておくと腐っちゃうのよねえ」
ポツリ、遠い目をしてアストリッドがつぶやく。
あ、まただ。と思う。
ときどきこんな風に、アレイストもアストリッドも、自分たち――彼ら一族というものを、自嘲気味に語ることがある。
一族の誇りがどうの、ヒトより優れているなどと嘯きながら、反面、自らを倦んでいるかのような厭世感を見せるのだ。
――なんて矛盾した、生き物なんやろう。
そういう弱さを垣間見せるから、私は呆れ果てても、ややこしい目にあっても、彼らを見捨てきれないんだ。
『……なあアスタ。あたしクソッタレ野郎に会いたいんやけど、ちょっと下行って来てええ?』
「はあっ!?」
眉をしかめながらもそう言った私に、アストリッドは仰天して飛び起きる。ものすごい勢いで肩を掴まれ揺さぶられる。
「なに言ってんの、あいつにされたこと許すとかお人よし過ぎること言うんじゃないでしょうね、許さないよそんなのみんな!」
早い早い、聞き取れんからゆっくり言うてー。あとガクガクするからヤメテー。
何も説明しなくても、クソッタレ野郎=クリストフェルだとわかっているとこがさすが親友。
『ちゃうて。性犯罪者は去勢しろとか乱暴な持論もっとるしあたし。許すとかそんなんは置いといて、聞きたいことあるんや』
正直言うと、やっぱりまだ会いたくない。
でも、今を逃すと、いつまでも私は奴の影――というか、あの出来事を引きずるような気がするんだ。
奴を救出にリーリィたちが来るとかいうこの騒ぎが収まったら、アレイストはきっと、私の知らない間に彼を本家とやらに送るだろうし。
その前に。
負けない目で答えを待つ。アストリッドは頭を抱えて唸った。
うんごめん、奴に会わせず守ってくれようとしてるのに、台無しやもんな。
ここぞというとき私が頑固だと知っている親友は、うなだれてため息を吐く。
『もお……、仕方ないから連れてくけど、アレイストがオッケーしたら、だよっ?』
うう、過保護に許可か……さっき言いきかせられたばっかやのに、くすぐり刑決定やろかー。
不機嫌通り越して呆れた表情のアストリッドを伴って、私はアレイストがいる書斎のドアを開けた。